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ミステリの祭典

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孤独な彼らの恐しさ

作家 笹沢左保
出版日1966年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/09/21 16:11登録)
(ネタバレなし)
 同年の友人二人と自動車修理工場を経営している32歳の三木秀彦。三木には26歳の美人の婚約者・水森麻衣子がいる。が、三木は次第に実は自分が、麻衣子の姉で35歳の和風美人・今日子の方に、内心で惹かれ始めているのを自覚した。今日子は先に、不動産業者で47歳の宇佐美勉と離婚したばかりで、当人は妹やほかの女子を社員にして女性向けの高級アクセサリー店を経営し、成功を収めていた。そんなある日、三木は訪ねた水森家で、今日子から意外な話を聞く。

 1966年の長編。徳間文庫版で読了。
 笹沢の比較的初期長編の一本で、この時期の諸作は出来不出来が激しいが、その実態ぶりを一冊ずつ、自分の目で確認するのも楽しい。
 で、結論からするとこれはなかなか当たり。

 間を置かず、スピーディに展開する作劇はいかにも笹沢作品らしいし、周囲のヒロインとの関係性のなかで主人公・三木自身のある種の自分探しめいた文芸があるのもいかにもこの作者っぽい。三木と友人たちの会社に勤める24歳の事務員で三木に片想いの好意を抱く美人・藤野雪代がなかなか魅力的。今でいうヤンデレ系のヒロインだが、本作のなかに複数登場する大小の役割の女性のなかでは、笹沢持ち前のちょっとくすんだロマンチシズムが一番投影されている。

 終盤に次々と明らかになる意外な真相の一部は先読みできないこともないが、手数は多いので全部を読み切ることはちょっと難しい? だろうし、さらに本作では犯罪そのものの生成の由来と、反面、主人公の三木側の視点で不審を抱くくだりの契機(あれやこれやと段階的に疑問を抱く流れがよろしい)など、それぞれ効果的に綴られている。本作を賞賛するゆえん。

 ダイイングメッセージめいた部分の真相や、とある物的証拠についての推理の甘さなど、いささか強引さを感じる面はあるものの、印象的な犯人の造形まで踏まえて、トータルとしてはそれなり以上に高く評価したい。

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