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ミステリの祭典

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名も知れぬ牛の血
別題『ミラクル・キッド』

作家 ノエル・カレフ
出版日1963年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/09/17 07:20登録)
(ネタバレなし)
「俺」ことロジェ・ケルディックはフランス系、「奇跡のキッド」の異名をとる26歳のライト級プロボクサーだ。キャリア10年のロジェは、欧州チャンピオンのペーター・ハネッセンを倒して王座につく。ロジェは、美人だが貧しい家の出で現金に強い価値を見出す愛妻エレーヌのために、これまでの拳闘生活で稼いできた貯金の大半2万5千フランを札束に変えて、祝いの席に用意するつもりだった。だがそんな矢先、ロジェは勝利直後の控室で、大人気映画女優ヴァイオレット・アミーといきなり対面して驚愕。ヴァイオレットは言葉少なく、明日の自宅への誘いを残してすぐに退散した。ロジェは妻との約束よりもヴァイオレットとの邂逅を優先して指示されたアパートに赴くが、そこでは予想もしない出来事が待っていた。

 1960年のフランス作品。
 いかにも観念的な響きのある(そしてどこか厨二的な感じの)邦題が、大昔の少年時代から気になってはいた。それがいつの間にか『ミラクル・キッド』なるシンプルな題名にかわっていたのに気づき、しばらく前に苦笑したものである。

 で、そろそろいい加減読もうと思って、半年ほど前に安い古書を入手。評者にとっては『死刑台のエレベーター』に続く二冊目のカレフの作品として読み出したが、なんかアルレーの巻き込まれ型サスペンススリラーみたいで、予期していた以上に分かりやすい筋立てにびっくり。期待していた観念のソースめいた文芸要素はどこへ行った?
 
 なお主人公ロジェが自分の分野で十分以上の成功者(美人の愛妻との絆もふくめて)ながら、さらに図にのって、いきなり現れた映画スターの美女に、向こうもスターなら今ではチャンピオンとなったこっちもスターだとばかりの欲目を出してしまう人間臭さは悪くない。奥さんのエレーヌのことは今でも本気で愛しているのに、別腹で情欲を抱いてしまうあたりのホンネぶりが導入部になるのは、ちょっと面白かった。

 中盤からの展開は、やや力業なストーリーテリングながら、さらに王道のサスペンススリラーになっていく味わい。完全に体育会系の主人公だが、ちゃんと一応はアタマを使った駆け引きも見せて、自分に害する相手と渡り合う図などには好感がもてる。

 でもって、後半~終盤の展開は……ああ、(中略)も含めて、そういうことだったのね、という感じ。結局、思っていたよりストレートでジャンルの枠内に留まった(良くも悪くも)作品であった。
 全体の評価としては、佳作、というところか。60年以上前の時代の作品として、とある分野の文化事情が語られるのは(ウソかホントか知らないが)ちょっと興味深くもあった。

 ちなみに創元の旧題の方で読んだけど、巻頭のあらすじ~解説の最後の数行はネタバレで余計なこと? を書いてあるので、少なくともソコは読まない方がいいかも。
 
 これも少年時代から気になっていてようやっと読んだ一冊だが、ああ、こういう話だったのねという、いつもの種類の感慨が湧く、そんな中味であった。

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