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ミステリの祭典

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日曜日は殺しの日

作家 天藤真&草野唯雄
出版日1984年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/09/16 15:21登録)
(ネタバレなし)
 小学校の教師で26歳の小野友季子は、やはり教師の夫の道夫を、とある日曜日にいきなり失う。それは、岡本病院に所属する青年医師・村中が、急患として担ぎ込まれた道夫をあまりにも杜撰に診察・処置したことが事実上の死因だった。公的に村中の不誠実さを追求できないと認めた友季子はやり場のない憎悪の念を募らせるが、そんな彼女に一人の女が接触してきた。

 1983年に病気で物故した天藤真が亡くなる寸前まで執筆中だった未完成の長編を、同期作家で親友でもあった草野唯雄が完成させた作品。病床の天藤は、もしも自分が本作を完成させられなかった場合は草野にあとを頼んでくれと家族に願い、草野当人もこれを快諾。天藤は結末までのプロットメモなども残していったそうなので、この手の補筆作品としては、かなり密な連携が図られているといえる。

 とはいえちょっと複雑な作品完成の経緯ゆえか? 本作はいまだ、元版のカドカワノベルズ版のみの刊行。同社や創元での文庫化などもされていない、ちょっとレアな作品。
 それで気になってこのたび、読んでみた。

 メインヒロイン主人公である友季子の憎しみがどういう方向に向かうかは、ノベルズの表紙裏折り返しのあらすじにも書いてあり、このレビューで触れてもネタバレにはならないと思うが、一応、未読の人のことを考えて割愛。ただ、よくある定型のミステリテーマのひとつをひねったところから物語が動き出す(それ自体は読者視点ですぐわかる)、とだけ書いておく。

 友季子側の視点で物語が語られる一方、やがてストーリーに介入してくる35歳の独身刑事で「鬼瓦」と異名をとる好漢の警部補・大滝光雄と、その若い部下・吉沢がまた別のサイドのメインキャラクターになる。
 友季子側のストーリーが地に足のついた(物語の現実感、非現実感はともかく)叙述なのに対し、大滝側の描写がえらく軽妙なのはアンバランスな感じもあるが、その辺はたしかに一部の天藤作品っぽい舌ざわりでもある。

 後半の二転三転の展開、やがて暴かれていく物語の妙はややややこしい。例によって人物メモを作りながら読んだので、なんとか最後まで食いつけたが、さらにできればこれから楽しむ方は、人物相関図などまで書きながら読み進めた方がいいかもしれない。
 まあこの辺の一見、口当たりのよい軽めの作品のように見えて、実は存外に手強いというのは、いかにも一時期の天藤作品らしいが。
 
 いずれにしろ、すでに鬼籍に入られた両作家のお仕事と友情のほどに敬服。
(末筆ながら、本作の完成までには、やはり天藤と親しかったもうひとりの作家で、当時小田原在住の、川辺豊三の協力もあったらしい。)

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