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ミステリの祭典

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アキレウスの背中

作家 長浦京
出版日2022年02月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 麝香福郎
(2024/11/05 21:22登録)
警視庁捜査三課の下水流悠宇は、参事官の乾に命じられ、所属を越えて極秘編成される班の一つを指揮することに。最初の任務は日本トップクラスのマラソンランナーに脅迫状を送りつけてきた犯人の特定と逮捕。それは一ヶ月後に東京で開催される、初の公営ギャンブル対象のマラソンレースと関係があった。
競馬や競輪のようにランナーの着順を予想して金を賭けることが出来る前代未聞の大会を狙うテロリストたちを相手に、テロ対策経験のない下水流班が立ち向かうスリリングなノンストップサスペンス。
F1レースを想起させるスポーツメーカーによる最先端のランニングギア開発競争、前人未到の記録に挑む日本人最速ランナー、政治と利権が絡みまくった競技大会、そして透けて見える大国の思惑。さらに警察内部の問題や部下の不審な動き、アスリートの恋人に迫る危機など、本作は複雑な背景から次々と噴出する難題とテロ計画に対する若き女性指揮官の物語といえる。と同時に、ひとつの道を究めんとする者と究めようとするも叶わなかった者を映した物語でもある。刑事、ランナー、ランナーを支える人が皆、目標に向かってゴールに向かう。それと同時に犯人との攻防戦が緊張感たっぷりに味わえる警察小説。

No.1 7点 人並由真
(2022/09/13 18:56登録)
(ネタバレなし)
 2020年代の近未来。英国の国家公認ギャンブル業「ブックメイカー」に倣って、日本でも同制度が導入され始める世界。内外の各種スポーツ界には、一般市民の新たな種類の興味の眼が向けられていた。そんななか、警視庁は、特殊な事件ごとに各方面から人材を集めて捜査チーム「MIT」を編成するタスクフォース型の方針を採っていた。今回、4人の若手捜査官チームの主任となった29歳の下水流悠宇(おりみず ゆう)警部補は、国際的なスポーツ用品業界に深く関わる組織、スポーツ総合研究所「DAINEX」の案件に介入する。そこで悠宇たちが見たものは。

 評者は長浦作品は『リリー』に次いで二冊目。
 今回はまったくフリで、現物を見て面白そうなので手に取った。
 内容は21世紀の社会形態(設定上はちょっとだけ先の未来だが)を題材というか舞台にした組織論、人脈論などを大きなテーマのひとつにした、良くも悪くもよく見かけるタイプの今風の警察小説。
 ただしヤンエグ(死語か)である女性主人公・悠宇の過去の肖像と現在の葛藤と活躍、そして何より成長ドラマが語られる、ちょっと高めの年齢のキャラクターの青春小説にもなっているのが特徴。

 主要な登場人物連中は全体的に、程よいさじ加減で作者がそれぞれに愛情を込めて書いている感じで、読んでいてちょっとだけスレたつもりの読者(ホントか?)であるこっちは気恥ずかしくなるところもあった。
 だが大枠では、現実の塵芥のなかでまっとうな倫理やヒューマニズムを訴えて何が悪いと言わんばかりの作者の胆力が勝ちを収めた感じで、そういう意味でもかなり正統的な、青春小説っぽい。
 重要なメインキャラクターのマラソンランナー、嶺川も、彼を支援する年配のスタッフ連中も魅力的なキャラクター。捜査陣の面々もおおむね印象がよい。

 主人公の悠宇は、またいつかシリーズものの続編として再会したいなと思う一方、ここで彼女の成長の物語の一区切りを見終えたい(このあとの余計なことは見なくてもいい)とも思える、そんなデリケートな印象のキャラクター。つまり個人的には、かなりいい人物造形だと思う。

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