ブルックリンの死 |
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作家 | アリッサ・コール |
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出版日 | 2022年03月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/09/12 16:18登録) (ネタバレなし) 21世紀、現代のニューヨークのブルックリン。「わたし」こと、ここで育ったシドニー・グリーンは30歳の独身の黒人女性。最近は特に不動産業者の動きが活発で、彼女の周囲ではなじみの住人や店の経営者がどんどん入れ替わっていた。そんななか、近所の住民サークルに参加するシドニーは、「ぼく」こと最近近所に越してきた白人の青年セオとともに、地域の歴史について探求する流れになる。だがそこで彼らが知った驚愕の事実とは。 2020年のアメリカ作品。2021年度のMWA最優秀ペーパーバック部門賞、ストランド・マガジン最優秀新人賞を受賞したばかりのチャキチャキ(死語)の新作。 作者は本格的な長編ミステリは本作が初のようだが、すでに多数のロマンス小説(SFっぽい内容のもあるらしい)で著作の実績がある中堅作家らしい。文庫裏表紙ジャケットの折り返しにある著者の写真を見ると、主人公の片方シドニーを思わせる才女っぽい黒人の美人作家の近影が載っている。 物語は女性主人公シドニーと、以前から有色人種が多く暮らすブルックリンの町に越してきた白人青年で恋人に捨てられたもう一人の主人公セオ、このふたり双方の一人称で叙述。両主人公の担当パートは章単位だが、流れによっては二回以上同じサイドで続くこともある。 さらにその二人の一人称の合間合間に、地区住民によるSNSでの会話が逐次、抜粋形式で挿入され、事態の推移を読者に向けて立体的に開陳。 文庫本で500ページ近い厚めの一冊だが、そういった叙述の工夫やこなれた翻訳の読みやすさもあってリーダビリティはかなり高い。一晩で頑張って読み終えてしまった。 作者は達者な筆遣いで、多数かつ多様な登場人物を物語の前面に出し入れ。ブルックリン周辺で何かが起きているその緊張感をじわじわと伝えながら、一方で主人公ふたりの関係を主軸にしたミニマムな見せ場などもふんだんに用意する。 19世紀からの奴隷制・人種差別問題、地域の区画整理の陰の汚職、格差問題など社会派的なテーマを積極的に盛り込みながら、最終的にどこに着地するのか……という興味で読んでいったら、終盤はかなりぶっとんだ方向にまで話が広がって、はあ!? となった。 (とはいえ、そこへ行くまでにも前哨戦的にアレコレあり、テンションの高め方は結構なテクニックだと思える。) 評者はもちろんまったく初見の作家で、単純にネットで内容(サワリの)紹介を見て読んでみたが、予期していた以上に楽しめた。今年の翻訳ベスト5には入らないと思うが、ベスト10なら考慮したい程度の出来。 なんとなくアメリカ大都市の一部の社会の現状も覗けたようで、そういう意味での興味も少なくない(まああくまでフィクション、の部分もあろうが)。解説にも書かれているが、街中に設けられた市民用の共同農園の話題など、たぶん本書で初めて意識した。 佳作~秀作の都会派スリラー、ちょっとだけトンデモ系。面白かった。 |