レーテーの大河 |
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作家 | 斉藤詠一 |
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出版日 | 2022年05月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/09/07 19:41登録) (ネタバレなし) 昭和20年8月10日の満州。迫りくるソ連軍の猛威のなか、若き帝国陸軍中尉・最上雄介と石原俊彦は軍用列車を用いて駅に集まる民間人を少しでも救おうとするが、上層部の謎の命令を受けてやむなく軍務を優先。せめてものこととして3人の男女の児童を助けた。それから18年。オリンピックを目前に控えた東京では、かつて満州で命を救われた今は28歳の青年・天城耕平たち3人の若者、そして自衛隊と防衛庁という場で活躍する最上と石原の前に、激動の運命が待っていた。 今年の新刊。評判がいいので読んでみる。 評者はこの作者の作品は、乱歩賞作品『到達不能極』について二冊目。 賛否が割れた印象のある『到達不能極』に関しては、やや大味ながら結構面白く読めた評者だった(一番近いところでいうと、柴田昌弘の一時期の単発中編SFコミック~『ローレライの魔女』とか~みたいな触感)。 今回は昭和の裏面史を語る内容で、プロローグは終戦直前の満州、本編が昭和30年代後半の高度成長時代の東京という流れである。 先にAmazonの無神経なレビューで、重要なキーワードのひとつをネタバレされてしまったので(怒)、事前の興が薄れたきらいもあったが、一方で「そういう話」なら読んでみるかと思った部分もあり、手に取った。 登場人物の頭数は多くなく(脇役のモブキャラにはあまり名前も与えない作者の配慮もよろしい)、紙幅も大き目の活字で一段組、300ちょっとページも物語の広がりの割に短めなのでとても読みやすい。 その分、今回もやや大味で荒っぽい展開という印象はあるが、そんな反面で作者が自分で気に入ったキャラクターへの踏み込み、書き込みは妙な味があり(たとえば、主人公のひとり・耕平が出会うキャバレーの客引きなど)、その辺はエンターテインメントとしてよろしい。 ある意味で本当の主人公と言える、昭和前半期の時代そのものは相応に書き込まれていて作者の奮闘は評価したいが、それでもどこか21世紀の視線からの、ある種の憧憬や観念めいたフィルターを重ねて語った、時代・世相の描写になっている面もある。 ただし1964年オリンピックの歴史に秘められた闇の部分への言及は、まぎれもなく昨年の汚濁にまみれたオリンピック企画への現代的な風刺の投影だろうから、この創作スタイルというか作法は、それはそれで意味のないものではない。 クライマックスのサスペンス活劇の熱量はそれなりのものだが、一方で巷で絶賛されている? ほどのものでもないなあ、という思いも。むしろちゃんと最後まで押さえ込んだクロージングの方が好感を抱く。 全体として、今年の(国産ミステリ上位の)収穫、などという高評などはとても首肯できないが、それなりには楽しめた佳作(ギリギリ秀作)という印象。 『点と線』や『オリエント急行の殺人』が作中に登場し、その一方はごくちょっとした小道具になるのも楽しい。 評点は0.5点くらいオマケ。 作者は今後、打率は悪くない作家になってくれそうなので、未読の既刊作品、さらには次作もしっかり楽しませていただこう。 |