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ミステリの祭典

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骨を弔う

作家 宇佐美まこと
出版日2018年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 パメル
(2022/08/25 08:26登録)
登場するのは、小学生の少女二人、少年三人。リーダー格の佐藤真実子は、あとの四人をあごで使うようなタイプ。この作品は、清々しく朗らかな成長物語とは違う。少年少女たちは、時を経て中年の男女になっている。かつて真実子が、担任教師を困らせるために理科教室から盗み出した骨格標本を山の中に埋めに行った小さな冒険のことなど、記憶の隅に追いやっている。それぞれが今、立ち向かうべき問題や事情を抱えて手いっぱいなのだ。
故郷の川の増水で堤防が崩れ、バラバラの白骨が発見されたが、正体は理科教材の標本だった。その新聞記事が、本田豊の記憶を刺激する。三十年前の小学校五年の夏休み。四国の田舎町の集落に住む同い年の五人は、骨格標本をそれぞれリュックに隠し、確かにそれを埋めた。だがその場所は山の中だった。では自分たちが埋めたのは、本物の白骨だったのではないか。
今も故郷近くに住む豊は、幼なじみを訪ね歩き、その疑問をぶつけていく。だがグループのリーダー格だった佐藤真実子が、亡くなっていたことを聞く。真実子は理科室から標本を盗み、夏休みになってから皆に埋葬を命じた張本人だった。三十年前のあの時、いったい何が起きていたのか。
豊と語り合ううちに、幼なじみたちは忘れていた記憶を思い出し、子供時代には分からなかった「事情」を忖度していく。優しかった老夫婦の人格の変化、異臭騒ぎ、殺人の告白、失踪。そして輝いていた子供時代と「今」を比べ、それぞれの現況と向き合い始める。同棲相手との将来、夫の暴力と舅夫婦の無神経な言動、大震災による家族の死。そして巡礼者である豊自身も、心の奥に納めていた秘密を見つめ直す。
こうして過ぎ去ったはずの過去の行いが、現在にまで手を伸ばし、意外な真相が導かれるが、その過程のどんでん返しが衝撃的。謎解きの鮮やかさと同時に、登場人物たちの人生の意義も浮かび上がる忘れがたい作品となった。

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