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ミステリの祭典

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わが魂、久遠の闇に

作家 西村寿行
出版日1978年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2022/08/24 05:43登録)
(ネタバレなし)
 新潟から調布に向かった、定員6人の高級機セスナ402。だがその機体は北アルプス上空で消息を絶ち、やがて三週間後に、乗客乗員の6人はみな、奇跡的に保護された。だがその飛行機に、今は行方不明になっている自分の愛する妻子が同乗していたのではと疑念を覚えたプロダイバーの出雲広秋は、盟友の中谷剛一とともに事件の真実を探るが。

 講談社文庫版で読了。

 ……いや大ネタ(中略)は、当時の北上次郎の新刊評エッセイで、元版の刊行時から知っていた。で、それゆえ当時は、ああ、このセンセイ、ついに<そこまで>人の道を踏み外したテーマの作品を……と激しい嫌悪感を覚えて、その後もチョビチョビと寿行作品を読むことはあっても、コレだけは絶対に手を出さなかったのである。
 ただまあ、それでも長い歳月を経て十年くらい前から、これもいつかは読むんじゃないかな……と思い始め(…)、ついに今夜、気が付いたら手に取っていて、そして数時間後に、読了していたのであった(……)。
 
 とにかくかぎりなく猟奇的で残酷でバイオレンスで、かなりエロで、相当にグロの作品。
 並の寿行作品の三冊分ぐらいのいかがわしさが、この一冊に凝縮されている。講談社文庫の裏表紙の紹介文の一端「勝つも地獄、負けるも地獄の修羅場には、もはや逃げ道はない。」のワンセンテンスはハッタリではない。
 これまでは評者など、このヒトの最高エログロ作品は文句なしに『峠に棲む鬼』だと信じていたが、これはそのプロトタイプ的な部分も感じられる(特に中盤から後半に切り替わる際の、外道悪役側の図に乗った物言いなど)。

 ただまあ主人公側も悪役たちもとことんとことんクレイジーながら、前者の復讐行の軌跡の中には、本当にわずかに時たま、人間の昏さを何十とするなら、ところどころでほんのひとつふたつ、ほの明るくやさしい人間賛歌が覗く。そしていかにも復讐ものらしい切なさが見える。それが鮮烈に心に残ったりする。
 そういう意味では、歴代寿行作品(特に、いわゆるハードロマン路線)の中での、やはりトップクラスのもののひとつだろう、コレは。
(個人的には、オールタイム西村寿行のマイ・ベストワン作品が『滅びの笛』なのは、一生変わることはないと思っているけどな。)

 ちなみにAmazonの本書のレビューのひとつに、終盤があっけないとの声もあるが、まあ寿行作品ならこんなもんでしょ、というのが読み終えた自分の感じる正直なところ。

 むしろ後半の復讐戦のノリの良さにつきあううちに、大設定であるメイン文芸(中略)という主題のインパクトや嫌悪感が、自分のなかでいつのまにかかなり薄れていることに気が付き、あ……と、軽く驚いた。

 講談社文庫版で本文約470ページ。中盤の300ページあたりで、まだ200ページ近く残っていることに戦慄を覚えた瞬間が、最高のテンションだったかもしれない。

 ちなみに講談社文庫版はもちろん元版じゃないが、巻末には他者による解説の類は収録されておらず、本文のクロージングでそのまま奥付に続く。
 きっと当時誰も、この作品の解説を書こうとしたり、書きたいと名乗り出たヒトはいなかったんだろうな?(笑)
 
 あー、とにかく、ついに読んだ、読んだ。読んじゃった。

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