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ミステリの祭典

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維新の終曲

作家 岡田秀文
出版日2022年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/08/22 05:04登録)
(ネタバレなし)
<第一部・あらすじ>
 19世紀後半、黒船の来航を機に時代が動き出した日本。長州萩の貧乏百姓の三男だった若者・卓介は、戦果を上げて武士の位を得ようと奮起。友人を率いて高杉晋作の奇兵隊に参加する。だが死線の果てに明治の世を迎えた卓介が認めたのは、現在の山口県(旧・長州)が旧幕臣を重用する新政府に隷属するみじめな姿だった……。
<第二部・あらすじ>
 桜田門外の変を経て、揺さぶられる旧幕府の体制。やがて江戸城開城が迫る中、旗本の三男坊ながら跡継ぎとなった若き武士・斎藤辰吉は、明日の身の振り方を考えるが……。
<第三部・あらすじ>
 ――

 久々にこの作者の著作を読了。
 今回は、帯の惹句「歴史ミステリー」だの、ネットでのプロの書評子のレビュー「ミステリ味の強い」だのの修辞に気を惹かれて手に取ったが、作品の実際の形質はあくまで歴史時代小説で、その筋立ての技法でミステリ的なテクニックを活用している本でしょ、これはあくまで。
 まあその上で、フツー以上に面白かったが。

 物語本文は目次で一目瞭然のように、三パートで構成。一部、二部の主人公はそれぞれ別人でスタートするが、それが物語が進むうちに、あーなってこーなっていく、まあ……そんな作り。
 で<そのタイミング>のサプライズは効果的なものの、以降の後半は面白い事は面白いものの、込み入った物語(史実上の事件の変遷)を語り尽くすための消化試合的な印象がなくもない。

 まあ(いつも言ってることなんだけど)、評者は幕末~明治維新という時代の動乱性にはすごく惹かれるんだけど、さほど日本史的な素養が深い訳ではない人間なので、ここで語られる虚実まぜこぜの? お話にはふんふんとうなずくだけである(汗・笑)。きっと、この時代の情報や史実上の人物の相関にもっと詳しい人が読めば、相応に違う感慨を抱くのではとも思う。

 で、だから、第三部もぐいぐい読ませたものの、情報量が多すぎて少々胃にもたれたし、さらにあの(中略)トリックは要らなかった気も……。(まあそうやって技巧的なギミックを取っ払ってしまうと、お話がいっぺんに立体感を失ってしまいそうな危機感もあるんだけどね。)
 
 繰り返すけれど、これは作者のミステリ系列というより、時代歴史小説の系譜の作品。その大枠さえしっかり承知で付き合うなら、これまでこの作者のミステリを読んできた人も、そこそこ楽しめるでしょう、たぶん。
(言い換えれば、王道のパズラーだの新本格的な趣のワクワクとは、あまり縁のない一冊だとは思うけど。)
 
 評点は、7点あげようかと迷った。

【追記】
 ミステリとしてではないが、第一部で気になった箇所。実戦のための戦力として徴用され、使い捨てられる百姓兵が、終戦後は大した待遇も受けられず、一方で自分たちが苦労して築き上げた組織のトップに旧幕臣の中堅が中央からやってくるというのは、現代の非正規雇用者の不遇ぶりと、天下り官僚問題、その双方の暗喩であり、そしてそれらへの揶揄であろう。そういう意味では、非常に21世紀らしい作品でもある。

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