マンハッタン・ブルース ジャーナリスト:サム・ブリスコー |
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作家 | ピート・ハミル |
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出版日 | 1983年06月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/08/21 07:02登録) (ネタバレなし) 1973年冬のニューヨーク。「私」こと38歳の元新聞記者兼コラムニストで、今はフリーのジャーナリストとして活動するサム・ブリスコーは、以前の恋人アン・フレッチャーから突然、電話で呼び出される。だが6年ぶりの再会の場で待つサムが知ったのは、アンが待ち合わせの場所に来る前に死亡したという事実だった。サムはアンの周囲に、以前の恋人だったメキシコの資産家「ペペ」こと銀行頭取ホセ・ルイス・フェンデスが復縁を願って出没していたことも知る。だがそのペペもまたつい先日、飛行機事故で死亡していた!? 関係者から得た情報から勘を働かせたサムは、フェンデス家の拠点であるメキシコへ向かうが。 1978年のアメリカ作品。小説家、コラムニスト、ジャーナリストとして活躍し、そしてたぶん日本では、あの高倉健主演の映画『幸福の黄色いハンカチ』の原作となったコラム記事の作者として最も知られている文筆家ピート・ハミルの、初めての本格的なミステリ長編。 創元文庫の翻訳者・高見浩のあとがきによると、50年代末から著述業を開始した作者はもともと本格的なハードボイルドミステリを書くことに憧憬があったそうで、1968年に別ジャンルでの小説家としてデビューしたのち、ようやくさらにそれから10年目に思いは叶った訳である。 主人公サム・ブリスコーの文芸設定はあくまで専業ジャーナリストだが、これは彼が作者ハミルの分身的なキャラクターを投影されたから。作中での実働は、ものの見事に正統派から通俗系までのスタイルを盛り込んだハードボイルド私立探偵という感じで暴れまわる(原書で本作に接したR・B・パーカーは、チャンドラー、スピレーン、双方の作風との接点を、大意として指摘しているが、正にそんな感じ。) 後半、メキシコに舞台が移ってから判明する事件の真相は、1935年生まれで第二次大戦以降の激動の時代のアメリカに生きた世代人の思いが、ジャーナリストとしての観測、そして現実とフィクションの境界的な構想を呼び寄せた、という感じのもの。ネタバレになるのでここであまり詳しくは語れないが、作者ハミルの実体験や調査にもとづく、現代の裏面史という内容のものであった。 その秘められた真実を語るクライマックスの叙述は、かなりパッショネートなものながら、同時にかなり切なくもある。そういう意味では、作者はいろんな意味で、とにかくやりたいことをやり、書きたいことを書き連ねた感じ。 なお読み応えから言えば十分に7~8点やってもいいが、気に障ったのは作者の性癖か何か知らないが、とにかくほうぼうの箇所で動物虐待のシーンが登場したこと。この作家、猫には優しいが、一方であちこちの場面で犬がひどい目にあう。特に主人公のサムがだいぶ昔に、以前の彼女との交際を相手の親に禁じられた際、その意趣返しで先方の家の犬を毒殺したと語るくだりには本気で腹が立った。評者はどちらかといえばイヌ派ではなくネコ派だが、それでもかなり不愉快である。これで1~2点減点。 翻訳は名人・高見浩なのでこの上なく読みやすいが、メインキャラの兄弟関係が、本文の中で弟のはずなのに年齢的な描写に不順があるとか(人物一覧にも齟齬がある)、主人公の名前の呼びかたでつじつまのあわないところがあるとか、ところどころヘン。評者が読んだのは重版の4刷目だが、当時の創元社はあまりいい仕事をしていなかったようだ。 なおこの主人公サム・ブリスコーものは、この翻訳が出る時点ですでに原書で続編が刊行されてシリーズ化もされていたが、日本への紹介はこの第一作目だけで終わった。それなり以上に重版もしているのに? きっと『幸福の黄色いハンカチ』のヒットを知った向こうの版元か、翻訳版権管理の会社が版権料を高くしたんだろうネ? (いや、現状ではまったく無根拠の憶測ですので、聞き流してください~汗・笑~。) 【2024年7月4日追記】 本日気がついたが、ブリスコーシリーズはその後2冊、創元から邦訳がちゃんと出ていたらしい(恥・大汗)。お詫びして訂正いたします。 いつか……読むかなあ……。動物虐待する主人公探偵は、どーも好きになれないので。 |