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ミステリの祭典

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べっぴんの町
アマチュア・オプ「私」シリーズ

作家 軒上泊
出版日1985年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/08/20 07:49登録)
(ネタバレなし)
 1980年代半ばの神戸。かつて少年院の教官だった35歳の「私」は、故あって二年前に退職。今は、非行少年や不良少女を抱える親たちの相談に乗りながら、時にきわどい生き方で、日々を送っていた。そんな私のところに、親しいが恋人とまではいえない女性で、ナイトクラブに勤める美女・亜紀子から相談事がある。それはクラブの客、中島達夫の娘で高校一年生の町子が行方をくらましたので、その捜索を願いたいというものだった。

 ブックオフでたまたま、元版の集英社文庫を見かけて購入。
 本書の著者で、70年代末から旧世紀の終盤まで活躍した作家(21世紀の活動実績についてはまったく知らない)・軒上泊。その名前は、評者なんかも当時の世代人なので、一部で話題の青春映画『サード』などの原作者として一応は聞き及んでいた。

 とはいえ自分がこの作者の小説の実作を読むのはこれが初めてで(映画『サード』も観てない)。
 今回はブックオフの100円棚で、懐かしい名前を見たという思いでなんとなく手にとり、文庫裏の私立探偵もののミステリっぽいあらすじと「ハードボイルド風青春小説!」というキャッチに気を惹かれて買い求め、そのまま一週間もしないうちに読んだ。
 
 主人公「私」は最後まで本名が未詳なまま、一人称でストーリーを叙述。レトリックを凝りまくる文体は、いかにもブンガク派国産ハードボイルドで、当初は少しうざったいが、ペースに乗るとなかなかクセになってくる。いかにも昭和末期のオサレ感、という印象もあるが、こういうのもしばらく読んでなかった(だよな?)なので、結構心地よい。

 主人公「私」がかつて少年院の教官だったという文芸設定は、実のところ作者のキャリアそのものの投影だそうで、なるほどその辺のリアリティは抜群。主人公なりのモラルの枠組みの中での、不良少年に対する時にダーティというかトリッキィな接し方など、その筋の現場のなかで実際に生きてきた者ならではといった迫真性がある。
 
 前述のとおり文庫の裏表紙には「ハードボイルド風青春小説」と謳われているが、実際の中身は国産正統派ハードボイルドミステリそのもので、途中では、かなり事件性の強い展開なども発生する。
 それゆえフツーに、謎解きミステリの要素もあり、最後には秘められていた作中の犯人も露見し、同時に意外なサプライズも味わえる組み立てだ。
 ただし純然たるミステリとして21世紀の目で読むと、いささか(中略)的に、たぶんそうはならないよなあ……的なところも認められ、また作劇の方もあれこれ難しさを感じないでもない(この辺も詳しく言えないが)。
 そういう意味ではやはり、昭和末期の時代の中での国産ハードボイルドとしての文体やある種の観念性を楽しむべき作品ではあろう。

 上で書いたあれこれ気になるところはあるが、途中まで読んでいるときには8点でもいいかな、と思ったりもした。その位には印象は良い。最終的にはこの評点だが、7点にしようかと迷ってもいる。いつかなんかの弾みで評点をつけ直すかもしれない。

 ちなみに本作は、柴田恭平の主役で映画化もされているらしい。機会があったらちょっと観てみたい気もする。

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