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ミステリの祭典

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祖父の祈り

作家 マイクル・Z・リューイン
出版日2022年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/08/18 05:20登録)
(ネタバレなし)
 繰り返し出現する新型ウィルスのパンデミックによって、地上の文明社会が荒廃した時代。アメリカなどでは貧富の格差が拡大し、中流~下層階級ではIDカードを持つ人々のみが「フード・バンク」から食物を供給されていた。ある町に暮らす「老人」は「妻」をウィルスで失い、今は未亡人の「娘」とその息子(老人の孫)の「少年」とともに、時には犯罪(略奪)なども辞さぬまま毎日を生き抜いていた。そして、そんなある日……。

 現在は英国に移住した米国作家リューインの、2021年の新作。80年代にはネオハードボイルド世代の若き旗手のひとりだった作者もすでに今年80歳だが、まだ健筆をふるっている。
 今回の内容は、ポスト・アポカリプス(大戦や災禍で文明が衰退した未来世界)もののSFで、相次ぐ新型ウィルスが蔓延する災厄の結果、従来のモラルが失われ、新たな生存のルールが築かれつつあるアメリカの一角での、とある家族の物語が語られる。
 ちなみに主要登場人物は、ほとんどが最後まで固有名詞が未詳で(メインキャラで例外はひとりいるが)、その辺りも本作の観念性を際立たせているようにも思える。

 実際、全人類の文明が未知の病魔に屈し、弱者を思いやる善性も憐れみの念も薄れた世界のキツさは、相応のもの(直接的なバイオレンス描写は少ないが、登場人物の大半が生きるために必死な世界の閉塞感は、実に良く感じられる)。
 しかしそんな逆境の中でも、時には弱音を吐きながらも、底流には生きる前向きさを、家族を守ろうという互いの思いを忘れない、主人公一家の姿には、ほのかな明るさ(そして時には切ないペーソスとユーモラスさ)がある。
 ポケミス一段組(久しぶりだな~)で200ページちょっと、これで税抜き2000円の定価は高いんじゃないの? とも思うが、紙幅の割に内容は読み手に何かを感じさせる読み応え。
 現実の世界でコロナ災禍が蔓延する辛い困った時代に、老境のリューイン、思うままに「家族」の物語を紡いだという感じで、これはこれで意味のある一冊ではあるだろう。
 内容や設定からして「リアル」であると同時に、いきおい寓話性の高い物語だが、いわゆる「意識が高い系」(悪い意味での)などとは無縁の、きわめて自然体の作品でもある。佳作。

 でまあ、こーゆーことを言うのはナンだけど、21世紀のコロナ禍の中でのズバリ、アルバート・サムスンの探偵稼業の新作長編なんかも読んでみたいねえ。作者にはもうそういうものを書く気はないのだろうか?
(もうじきポケミスでまた、サムスンやパウダーもののシリーズものを集めた連作短編集が出るみたいなので、それはそれで楽しみではあるが。)

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