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ミステリの祭典

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テキサスのふたり

作家 ジム・トンプスン
出版日2022年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/08/17 16:52登録)
(ネタバレなし)
 テキサス州のダラスやヒューストンを渡り歩く35歳のプロのギャンブラー、ミッチ・コーリー。その腕前はそれなりだが、賭博で金を稼ぐ仕事は水商売で、彼は20代半ばの恋人かつギャンブル上の作戦の相棒である赤毛の美女「レッド」ことハリエットに、実際の金額以上の資産があると見栄を張っていた。だが一方で愛する息子サミュエルの養育費や、離婚が不順な妻テディへの毎月の支払いで金策が必要なミッチは、次第に緊張感を抱くようになる。

 1965年のアメリカ作品。すでにペイパーバックライターとしていくつもの名作を著した時期の作者が上梓した、広義のノワールものといえるギャンブル小説。
 巻末の解説によると他のいくつかの諸作と同様、複数の職業を体験した作者の自伝的な要素も見受けられるフィクションだそうだが、評者などはそこまで体系的にトンプスン(トンプソン)作品を読み込んでいる訳ではないので、特にそういった感慨は得られなかった。

 堅気の人間の尺度とは異なる目線でのいい暮らしをしようと願う主人公ミッチが、互いに愛情を感じはするものの一方でカネで縛り付けておきたい恋人レッドとの関係の継続を願い、さらにいくつものトラブルに対面してゆくのがストーリーの軸の部分。
 これまで評者が読んだダーティでワイルドなトンプスン作品とは違い、全編を妙なテンションとユーモアが入り混じった空気感が支配する印象もある(とはいえ、主人公ミッチの視界の向こうでは、かなり苛烈かつバイオレンスな描写も登場。人間のダークサイドも適度? に描かれる)。

 翻訳がすごく読みやすいと思ったら、訳者は、ポケミスでクリスティー作品なんかも担当している田村義進。実際のところはわからないが、評者は久々にこの人の翻訳に出会った印象がある。

 他の作家、たとえば日本にほとんど紹介されたことのないマイナーな作者だったら、もう1点あげてもいいかとも思うけれど、トンプスンならこの評点でいいであろう。もちろんつまらない作品では決してない。

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