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ミステリの祭典

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天国の扉

作家 篠原一
出版日1998年04月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 メルカトル
(2022/08/15 23:07登録)
鈍い骨のずれる音がした。やった、と思った。もう一度力をこめたら頸はごとりと切断された。…ここに生命が極まった。どうにもやさしい眩暈がした。ゆうべはたしかに興奮した。人を殺したのははじめてだったのだ。コンクリートのあの部屋で僕が切断したのは誰?エヴァ世代の作家が描くクールな殺人、2年ぶりの長編。
『BOOK』データベースより。


【ネタバレ】あり


虚無感と高揚感が交錯するノワール小説。文頭で語られる死体の解体、そして死んでバラバラになったはずの「彼」が蘇る。良く解りませんが当然そこには何らかのトリックが存在するはずだったのですが、残念ながらオチはありません。途中でプッツリ切れたように物語は終わります。
僕を殺してバラバラにしてと訴えた少年の願い通りに、主人公のタケイはその行為を行います。そして翌日何もなかったように現れたその少年に命じられるまま、死にたいと願う人々を殺していくと云う話なのですが、確かにタケイの内面は良く描かれているとは思います。

しかし、本格ミステリでは許されない過ちを作者は冒しています。どう考えても焦点は何故バラバラに解体された少年が生きていたのかという事になるはずでしょう。当の本人、タケイすらその点に関して疑問を抱く様子もなく、敢えてその禁忌に触れない様にしているのは、可笑しいと云うより滑稽ですらあります。これはもう作者自身が現実逃避しているとしか思えません。何のオチもなしにこれを書いてしまってはいけないんじゃないでしょうか。ただ単にセンセーショナルな出来事で話題になりたいのなら、それなりの覚悟が必要ですよね。

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