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ミステリの祭典

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黒き荒野の果て

作家 S・A・コスビー
出版日2022年02月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/08/04 16:34登録)
(ネタバレなし)
 2012年。アメリカ南部の町。30歳代の黒人青年で自動車修理工場を営む、「バグ」ことボーンガード(ボー)・モンタージュは、近所に新たに出来た同業者に客を奪われて経営危機に瀕していた。そんな彼の元に、性格の悪いかつての「仲間」ロニー・セッションズが、新たな「仕事」のため、練達のカードライバーとしてのボーンガードの腕を借りたいと誘いにきた。家庭と会社を守るため、やむなくこの話に応じるボーンガードだが。

 2020年のアメリカ作品。
 本当に(フィクションとしての枠の中で)やむをえない事情を含めて、何回か犯罪に手を染めたものの、今は堅気の生活を送っていた主人公が再び裏の世界の仕事に手を染める、そんな王道の設定。

 だがあまりにもありふれた文芸のクライムストーリーながら、当人なりのモラルと良識を最後まで手放さず、そのぎりぎりまでのボーダーラインを現実の塵芥にまみれた「仕事」とどう折り合わせるか、綿密に書き込まれた主人公ボーンガード。そして彼を取り巻く、あるいはその視界の向こうで蠢く登場人物たちの叙述が、実にあざやか。
(ボーンガードの精神的な支柱として、やはりおそらくはやむない事情から悪の道に踏み込み、そのまま今も消息不明となった父親の記憶があり、この文芸設定が本作の大きなテーマのひとつになっている。)

 文庫本で400ページ強の小説は決して短くも薄くもないが、緻密に描写を連ねながらハイテンポで展開するストーリーの求心力は非常に高い。二日かかるかな? とも思ったが、結局はひと晩で一気に読了してしまった。
 
 先述のように本当にギチギチの観点から言えば、ふたたび悪の道に踏み込んだケイパー・ドライバーの物語だが、ボーンガードの言動ひとつひとつには、それぞれ常に読者の共感を得るであろう普遍的な行動原理が語られているので、ある意味では苦境に翻弄され、やむなき行動に身を転じる善人のドラマでもある。それゆえに読者の関心を最後まで引き寄せることに見事に成功している。
(ただし後半、個人的にはひとつだけ、主人公のこのジャッジでいいのか? と思ったものもあったが。う~ん……まあ、ギリギリかなあ……できれば先方へのアフターフォローとかしてくれれば、もっと良かったけれど。)
 
 webでの感想を探るとあちこちでも評判がいいようだが、確かに今年の海外ミステリの収穫のひとつであろう。秀作~優秀作。

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