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ミステリの祭典

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匿名作家は二人もいらない

作家 アレキサンドラ・アンドリューズ
出版日2022年02月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/07/29 04:12登録)
(ネタバレなし)
 21世紀のニューヨーク。クリエィティブな人間を目指しながらも中途半端で、出版社の編集アシスタント職に就く26歳の女性フローレンス・ダロウは、肥大する自意識と承認欲求の結果、職を失う。そんな彼女に舞い込んできたのは、映像化もされた超ベストセラー『ミシシッピ・フォックストロット』の作者で性別も年齢も未詳な謎の覆面作家モード・ディクソンの秘密のアシスタントとならないか? という話であった。

 2021年のアメリカ作品。出版業界を舞台にした、物書きを営む登場人物たちによる、ちょっと(中略)なサスペンス。

 500ページ以上の長めの一冊だが、文字の級数は大きめで会話も多いのでリーダビリティは高く、二日で読了した。

 強い野心を秘めた若い女性フローレンスと、謎の作家モード。この二人が主人公で、双方が出会う中盤から物語は大きく動き出すが、すでに読者はタイムラインを先取りした物語冒頭のプロローグで、ストーリーがどういう方向に向かうか、何となくの暗示を与えられている。

 巻末の訳者あとがきによると、作者は影響を受けた作家にハイスミスの名をあげているらしい。評者なども本編を通読後にその情報を読んで成程ね、と思ったが、一方で読んでる間はハイスミスの名前は念頭に浮かばず、むしろ別の20世紀の欧米の某・女流作家の影ばかり意識した(その作家の名前を出すと、本作の途中からの展開を少しネタバレしかけないので、ここでは割愛。まあ読んだ人は、なんとなく通じてくれるかもしれない?)。
 
 単純に面白かったかと言えばイエスの作品だが、そんなに新鮮さや本作固有の文芸的な深みなどはあまり感じない。
 ただし主人公フローレンスの持つ、凡人より本当にちょっとだけ秀でた己の才能を過剰評価してもっともっと世の中に認められたい、金が欲しい、成功したい、成りあがりたいというあがきには確かな普遍性があり、その芯を外さなかったことでそれなりの佳作~秀作にはなっている。
 ちょっと意地悪な意味で、色んなタイプの読者に読んでもらいたいような作品だ。
 
 読み終えていろいろと思うこともあるが、まあ、それはそれで。

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