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ミステリの祭典

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ザ・ルーキーズ 命がけの青春

作家 クレイル・パーカー
出版日1975年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/07/23 06:43登録)
(ネタバレなし)
 1972年のアメリカのとある都市。貧困と差別、不順な行政に不満を募らせた市民たちの慢性的な憤怒の念は、パトロール警官を攻撃する暴徒の続発という形で顕在化していた。30代半ばの若手ながら才気に富む警察署長ニール・モントゴメリイは、13歳の息子タッドの漏らした言葉をヒントに市警の人事改革を発想。新人警官募集枠の要綱を緩め、市民や犯罪、事故などに柔軟に対応できる、新たな人材の育成を考える。そして採用された35名の警官たち。そんな彼らルーキー警官たちの前には、絶えず猥雑で、そして時にあまりに劇的な職務が待っていた。

 1973年からアメリカABCネットで2年間放映、日本では1975年からフジテレビで半年分のみ放映された、20~30代の新人警察官たち(ルーキーズ)を主人公にした、ポリスものの海外テレビドラマ『ザ・ルーキーズ 命がけの青春』の公式ノベライズ。

 主人公である新人警官グループのメインキャラが、ユダヤ系の元学生運動家で、ワイズクラックが豊富なウイリイ・ギリス(本レビュー内でのカタカナ名の表記は、この小説版に典拠。他のキャラも同じ)。
 で、このウイリイの声のアフレコを、あの『ウルトラマンレオ』のおゝとりゲンこと真夏竜が担当(たしかこれが初めての吹き替え仕事のはず)。
 当時の評者はその興味から本番組を観たかったが、なんやかんやあってほとんど視聴した記憶がない(別の番組と重なったか、あるいはチャンネル権を親に譲ったか)。さらに関東では再放送の機会も少なく(もしかすると、一度もない?)、もちろんソフト化もされておらず、なかなか観るチャンスがない。
 ネットで番組名などを検索すると、レアな作品として気にかけている海外テレビドラマファンはそれなりにいるようだが。

 というわけで今年になって、たしかノベライズは一冊出ているはずだと記憶を再確認して、ネットで購入。状態のいい古書がそこそこ~それなりの値段で、入手できた。
 
 ノベライズだから当たりはずれも大きいだろうと予見はしていたが、これは意外に? アタリ。メインの主人公4人の新人警官の挙動の描写を軸に、研修期間のデティルなども(ノベライズとしては)かなり丁寧にユカイに書き込まれている。
(巡回中に、ポリ公め、と挑発にかかる市民の悪口雑言に耐える特訓のため、先輩警官から長時間の悪口に晒されるくだりなど、気の毒な一方で実に笑える。昔読んだ、寺田ヒロオの野球漫画での「殺人ヤジ」とかを思い出した。)

 登場人物の相関ドラマも意表をついており、特にくだんのメインキャラクター、ウイリイの在学中の彼女キャシイが、成り行きからハンサムな青年署長のニール(奥さんと死別して独身)と縁ができて、次第にウイリイほったらかしで距離を狭めていくあたりなど、なんか普通に87分署もののサイドストーリー的な趣である。つーか洋の東西を問わない、ちょっときわどい? 大衆小説の面白さだね。

 読み始める前は、たぶんしょせんはノベライズであろう? と、どこか舐めた部分も心の片隅に何%くらいかはあったのだが、実際には一編の警察小説(というか警官日常小説+捜査ミステリ)として、結構なレベルで楽しめた。
(後半での、とある強力犯罪事件は、プロットそのものはシンプルだが、その部分に至るまで語られた劇中キャラクターの描写との掛け合わせで、なかなか読ませる。そして……。)

 で、このノベライズの翻訳者は「上田純一郎」というヒトだが、あまり聞かないなあ、どういう御仁だ? と思って奥付を見ると、実はあの高橋三千綱の別名だとのこと。
 なるほど、日本語での小説(ノベライズ)としては達者な出来になるのも当然だと思う(厳密な意味で、全域の文章が的確で正確な翻訳かどうかなどは、もちろん未詳だが)。
 
 まあ、もともとは、なかなか観る機会のない海外ドラマの雰囲気をせめて別メディアで味わおうという程度の思いで手にした一冊だが、実際のところでは、そんな消極的な期待値を十分に上回って楽しめた。
(もしかしたら、翻訳の時点で、あれこれ小説的に面白くなるように潤色しているのか? とあらぬ疑いを抱いたりもしているが。)

 評価は6点に収めようかと思ったんだけれど、得点的にはとにかく良い方向にいろいろ裏切ってくれた内容だったので、この点数で。採点が甘いのは、百も承知である(笑・汗)。

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