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ミステリの祭典

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明日よ、さらば

作家 ミッキー・スピレイン
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2022/07/15 14:56登録)
ポケミスの本書には表題作と「性と復讐」の2作の短編が収録されている。両方とも創元の「スピレーン傑作集」に収録があるから、わざわざ本書なんて読む理由がない、といえばそうなんだけどもね。

たった2短編しか収録されていない本だからこそ、好事家的な価値があったりする。本書が要するにポケミスの最薄本、最終ノンブルは92。100ページに満たないという特異な本だったりする。厚い方は「コナン・ドイル」がレコードを作って以来、破られっぱなし(版組も変わったし)だが、この薄さのレコードを破るのは商業的に至難である。だって定価100円(1957年)だよ~

これには理由もあって、スピレイン旋風が吹き荒れてマイク・ハマー6作(+「果たされた期待」)が売れに売れまくった後、突如スピレインは沈黙してしまい、3年の沈黙ののちにキャヴァリエ誌に掲載されたのがこの短編2作で、久々の新作、ということでハヤカワが飛びついて版権取得。2作だけでも出版しなきゃ...という事情のようである。

「明日よ、さらば」は銀行強盗一味の人質になった主人公・保安官たちと、強盗一味との闘争を描いた作品。一団に押しかけれられた老人がイイ味だしているとか、クライマックスを冒頭に持ってきて興味を引っ張る書き方とか、スピレインらしい「技アリ」感のある小説。テクニカルには上手な人だ、というのが無視されがちなのが、評者とか不満なんだけどもね。
「性と復讐」は

淫売婦は、決して世間に背を向けちゃいないわ。むしろ、それを胸に抱きしめすぎるんだわ

と語る高級娼婦の自分語り。スケッチとしてはなかなか興味深いもの。

まあだから、薄いとはいえ面白いのは確か。それに加えて都筑道夫の「スピレインとその周辺」という解説が、結構よく参照されるスピレイン論として有名。「彼の小説ぜんたいを支配しているモラルは、いやになるほど健全だ」というのはまさにそうだし、スピレインの「作品は立派に探偵小説になっている」。またスピレイン流の作家としてビル・ピーターズ(マッギヴァーン)、エドガー・ボックス(ゴア・ヴィダル)に注目しているあたり、さすがなもの。

薄いけど、それなりの充実感はある。

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