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ミステリの祭典

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伊豆七島殺人事件

作家 西村京太郎
出版日1972年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/07/10 07:02登録)
(ネタバレなし)
 人類の未来の海中文明を展望し、そのための海洋開発実験を続ける大企業、新日本重工。同社は伊豆七島の一角・神津島の海中40メートルに居住空間「海の家」を沈め、海中生活の研究に勤しんでいた。だがその深さ40メートルの海中の施設内で、殺人が発生。しかも現場は広義の密室といえる状況だった? 業界誌「海洋ジャーナル」の青年記者・瀬沼は、成り行きそしてとある人物の請願を受けて、この事件の調査を独自に進めるが。

 先日、刊行されたムック「西村京太郎の推理世界」をつまみ食い読みしていたら、本書の高評に遭遇。何より、海中の密室という特殊な趣向が良いとのこと。うん、ソレにはまったく同感。大いに気を惹かれる。

 で、本作は、しばし気になる初期の西村作品の一本(それも完全なノンシリーズもの)で、まだ本サイトでも誰もレビューがない。じゃあ、と思い、読んでみる。評者は先日、ブックオフの100円棚で入手した光文社文庫版で読了。

 本作の大設定といえる、海洋開発プロジェクト。これには相応の人間が関わっているみたいなので、それじゃ、かなりの頭数の登場人物が出て来るなと覚悟したが、実際にはそんなでもない。
 同時に容疑者の方も物語の中盤には、片手の指で数えられるくらいに頭数が絞られる。そういう意味ではかなり読みやすい。

 探偵役の瀬沼がトリックを暴いては、また次の障害や不可能性が沸き起こってくるその繰り返しで、このしつこさはなかなか良い。
 一方で本作の弱点として、トリックに凝るのは良いのだけれど、作中のリアリティで言うなら、犯人はここまで(あれこれトリックの労を費やした)殺人をしないだろ、とツッコミたくなるところ。あまりに犯罪のコストパフォーマンスが悪すぎる。もっとシンプルに目的を果たすこともできたよね?

 その辺はホントに、リアリズムだのアクチュアリティだのに目をつぶった、お話フィクションの世界という感じであった。

 そういったある種のウソ臭さをミステリの様式美として割り切れる人なら、それなり以上に面白い力作で佳作~秀作だとは思う。
 ただ一方で、西村作品を百冊単位ですでに読んでいる人が、本書を初期作品ワースト10の一角に入れてたりする。もちろんその実際のところの判断基準は余人にはわからないんだけれど、本作の評価がヨロシクない人もいるという現実は、まあ理解できるような気もしないでもない。

 評価は7点あげようか迷ったけれど、ギリギリのところでこの数字で。
 前述のように、ミステリなんて(いい意味で)ウソ臭くていいじゃん、という向きの方なら、もうちょっとストレスを感じずに楽しめるかも。

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