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ミステリの祭典

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遺書の誓ひ

作家 カルロ・アンダーセン
出版日2022年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/07/09 15:45登録)
(ネタバレなし)
 英国の田舎町シェルムスフォードの周辺。そこにあるスタンフォード公爵家の別荘で、現当主のフィンスベリイ卿が何者かに殺害された。知己であるスコットランドヤードのケネディ警部から情報を得た「スター」紙の事件記者ベシィル・スチュアートは、友人でケネディも一目置く私立探偵ウィリアム・ハモンドとともに現地に向かうが、事件には思わぬ秘められた真実があった。

 デンマーク出身の作者が1938年に著した長編ミステリ。
 実作者かつ本作の翻訳者である吉良運平の旧訳2本(本作とデリコの『悪魔を見た処女』)が、今年になって論創海外ミステリ叢書で「吉良運平翻訳セレクション」の肩書で、一冊に合本した形(表題作はデリコの方)で復刻されたので、それで読んだ。

 くだんの論創ハードカバー巻末の丁寧な解説によると、英米のミステリ界の繁栄を横目に見たデンマークの出版界が独自のミステリ賞を設け、その栄冠に輝いたのが本作らしいが、作中の探偵役ハモンドがシリーズキャラクターかどうかなどはわからない。
 なお作者は1930年代から英国の企業の代理店の代表として働いていたようなので、本作の舞台が本国デンマークでなく英国なのもその、その辺と関係があるかもしれない?

 タイトルの通り、被害者の富豪が遺した遺書、さらにはその周辺に集う雑多な人間関係に踏み込んでいく物語だが、事件関係者への尋問が続く展開は良くも悪くも地味。
 途中でストーリーが殺人現場である? 別荘を離れて、とある場所に移動してからは、事件の奥行きも覗けてきて少し面白くなる。

 ただし謎解きとしては、(一応の手掛かりは設けてあったものの)かなり煩雑であまりカタルシスがない。その決め手になった手がかりも作中の人物ならともかく、読者の方では共通して情報を得にくい、ちょっと……という感じのものだ(これでもオッケーというパズラーマニアの人もいるかもしれないが)。

 悪くはないが、全体的に華もなく、楽しみどころもゼロではないにせよそんなに多くはない一編。
 英国ミステリのカントリーハウスものっぽい雰囲気は、よく出ているとは思うが。

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