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ミステリの祭典

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ランドルフ師と堕ちる天使
チェサーレ・パウロ・ランドルフ師

作家 チャールズ・メリル・スミス
出版日1982年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/07/03 06:35登録)
(ネタバレなし)
 シカゴ市内のグッド・シェパード教会。そこで臨時主任牧師を務める、40歳の神学士兼哲学博士のチェサーレ・パウロ(「C・P」)・ランドルフ牧師。彼はかつて「コン(騙しの)・ランドルフ」と異名を取るトリッキィなプレイのプロフットボール選手であり、そしてこれまで成り行きから2つの殺人事件でアマチュア名探偵として手柄を立てた実績があった。そんなランドルフに、教会を運営する上層部から、とある依頼がくる。その内容は、テレビで人気を博す福音伝道師のプリンス・ハートマン博士が教会の宗派への入会を願っているので、その当人の適性を審議してほしいというものだ。くわえて教会周辺での人事問題にも煩わされながら、ランドルフはとりあえずハートマン当人に会いに行くが、そんな彼らの周辺で、思わぬ殺人事件が発生する。

 1978年のアメリカ作品。
 1974年から開始された、ハンサムな独身中年牧師ランドルフ師を探偵役に据えた都会派謎解きミステリシリーズの第三作目。
 シリーズ第一弾『ランドルフ師と罪の報酬』は、本国ではあのJ・D・カーが毎号の書評役を務めていたEQMMの月評コーナー「陪審席」で賞賛。日本にもそんなカーの評価が、この作品の本編が翻訳紹介される前から伝わっており(70年代半ばのミステリマガジンに「陪審席」は毎月翻訳連載されていた)、同作が邦訳された際に相応の期待を込めて読まれたが、結局、わが国でのミステリファンの評価は、あんまり芳しいものではなかった。
 
 評者も当時そのシリーズ1冊目だけ読んで、そこでシリーズとは縁がなくなってしまったが、このたび数十年ぶりにふと思いついて、未読のこの第三作を手にとってみる(シリーズ第二作『『ランドルフ師と復讐の天使』』はいまだに未読)。

 で、読んでみると、お話のテンポはいい、登場人物も悪くない、というかイイ。
 物語の前半、とりあえずキーパーソンの伝道師ハートマンが悪人か善人かはまだよく見えないうちに、それでも結構、現実的で調子がいい人物らしいとは判明。そのあたりの人物像が、当人の教会宛に送られてくる寄付への対応システムの人をくった叙述を通じて、なかなかユーモラスに語られたりする。
 さらに中盤、ランドルフの恋人でテレビのニュースキャスターであるサマンサ・スタックが周辺の関係者から情報を得るため、ハニトラを仕掛けて結局はちゃっかりと逃げおおせる場面などもオモシロイ。
(あと印象的な場面というと、シカゴ市警の警部でランドルフと仲のいいマイケル・ケーシー警部補が、本筋とは関係ない雑多な殺人事件の現場にランドルフを付き合わせ、意外な鋭さを見せるところとか。) 

 でまあ、これで肝心のフーダニットの部分がソコソコ決まれば、ミステリとしても佳作~秀作ぐらいにはなるんだけれど、う~ん……。その辺は、あらためてこの作品も、強引かつ雑な仕上げだね(汗)。
 犯人の正体・設定についてのネタそのものは(よくあるものながら)もうちょっと面白く見せようもあったのに、コンナモンデヨカンベエイズムで済ませてしまった感じだ。

 ほかの作家の作品、シリーズの一番近いところでは、デアンドリアのマット・コブものあたりかなあ。
 結構その辺に似通うけれど、向こうよりはさらにお話のテンポはよく、一方でミステリとしてはやや弱い感触か。

 ちなみにネットで情報を拾うと、本シリーズは全部で長編が6冊刊行。最後の一冊は作者の死去によって、やはり作家の息子さんが完成させたらしい。日本ではそのうちの3冊まで(本書まで)翻訳されて打ち止めになったが、まあ仕方ないか。これじゃミステリとしては、日本じゃウケなかったろうしな(汗)。

 なんか、B~C級の都会派謎解き作品として、妙なほどに愛せる部分もあるんだけどね。評点はその辺を考えて。

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