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ミステリの祭典

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赤虫村の怪談
怪談作家・呻木叫子の事件簿

作家 大島清昭
出版日2022年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/11/17 14:46登録)
(ネタバレなし)
 愛媛県の山間にある「赤虫村」。そこは廃寺の周辺に現れる黒い顔面(というより無貌)の女性?「無有(ないある)」ほかいくつもの妖怪譚が今もひそかに確認される地だった。「私」こと女性怪談作家の呻木叫子(うめききょうこ)は、作品の取材のためその村の怪異の記録や噂を探求するが、その地で不可思議な不可能犯罪が続発する。

 帯にも堂々書いてあるし、読者も「無有」ってのはアレだね、と誰でも連想することからわかる通り、クトゥルー神話世界の世界観で起きる不可能犯罪パズラー。
 ただしこの小説の作品世界は、われわれ読者の世界とはまた別のパラレルワールドらしく、クトゥルー神話は少なくとも読み伝えられる文学の形では存在していません。
 主人公の怪談作家やその同業者たちが当然のごとく妖怪学や民俗学に詳しく、だったらそれっぽい名前の続発のなかで連想しないのはヘンだろと思っていたら、そもそもこの世界ではラヴクラフトやダーレスたちが存在しない、あるいはクトゥルー神話を書いていない、または書いていてもそうは人々に認知されてない、ようです。
 
 そんな妖しいものたちが跋扈する世界観のなかで、合理的に? あるいはやはり邪神やそのほかの異界のものがらみで? 不可思議な殺人が続発する。
 この趣向はなかなか楽しいと思うものの、呪いを受ける警察なども段々とオカルトの方を信じていき、不可能犯罪を暴こうとする意欲がいろんな意味で減退(身の危険を感じてこれ以上事件に介入したくなくなったり、神や妖怪の仕業じゃ手が出せないと思ったり)。
 読者の方も実はそのへんは同じで、不可能犯罪の謎解きに関しては、もっと「あやかしのものが確かにいる世界でも、これは人間の仕業では?」という作中人物の意識を固めるべきだったと思います(そうした部分が皆無とはいいませんが、演出として全体的に弱い)。
 なにしろ不可能犯罪の続発と並行して、怪異の情報もあとからあとから出て来るので、相殺感がたまりません。

 それでもトリックに関してはネタ的に楽しいもの(ミステリとして出来がいい、ではない)もあり、なかなかキライになれないけれど、終盤で明らかになる真犯人と密室トリックは、ふーん、そうなの、くらいであまりインパクトもサプライズもありません。あとの方のトリックなども、どちらかといえばチョンボでしょう。
 で、そのあとにつづく最後のサプライズに関しては作者の狙いはわかるものの、正直、あちこちの作品(国内ミステリが多い)で読んできたようなものですし、さらにキーパーソンのそれまでの存在感が薄いのであまり盛り上がりません。

 クトゥルー神話が伏在する世界での謎解きパズラーという大きな趣向そのものは、決してキライではないもの、全体的に随所の狙いの効果がいまひとつなのは残念。

【追記】
 作中人物や怪異のものたちのネーミングから、評者がもう少しクトゥルー神話に詳しく、神々たちやその眷属たちの関係性に知悉していたら、もうちょっと面白いものも見えたのかもしれない? そのあたりはファンの方にお任せしよう。

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