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ミステリの祭典

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攻殻機動隊
漫画

作家 士郎正宗
出版日1991年10月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 糸色女少
(2022/06/27 22:48登録)
本書には単なるSF漫画を超えた未来予想図が含まれている。時代は近未来、ネットと現実が複雑に絡み合った社会の秩序を守るために設置された公安9課、そのリーダーの草薙素子が主人公。初出は1989年であるにもかかわらず、そのコンセプト、技術描写、そして政治や社会問題設定は、現在読んでも全く古くないどころか、これから私たちが向かう未来を示している。
核戦争で東京が破壊され、首都が西日本に移っている設定などは、まるで福島原発事故を予測していたかのようで身震いがする。「義体」といわれる体の一部を機械化する技術、「電脳化」という脳にネットを直接接続し、情報をやり取りする技術。インターネット技術やSNSによる新しいコミュニケーションの将来像がすでに示唆されていたことに驚きを禁じ得ない。
限定的核戦争後の世界でいち早く放射能除去の技術で確立した日本が、世界の中で重要なポジションを占めており、再び経済大国として世界の一極をなしているという設定は、日本の将来に対する希望とも読めるか。
複雑な政府組織の闇、テロリストの破壊工作や、独裁国家の暴走、人間らしさを維持し電脳化や義体化に反対する人々と社会の摩擦など、まさに未来社会の抱えそうな問題も次々と描写されていく。
一方で、電脳化や機械化が進んだ人間の人間たるゆえんはいったいどこにあるのか、ということを問い続け、悩み続ける主人公の姿は、進化し続ける技術の進化に対する哲学的な問題を提起している。
本書はハリウッドの近未来映画にも大きな影響を与え、世界的にも人気が高い。ネット時代が本格的に到来した今こそ読み返すべき一冊といえる。

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