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ミステリの祭典

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ノー・マンズ・ランド
別題『驚天動地』

作家 モーリス・ルブラン
出版日1923年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/06/18 06:32登録)
(ネタバレなし)
 その年の5月。英仏を繋ぐドーヴァ―海峡では不可解な異変が続発していた。水柱が竜巻となり、大型客船の数百数千の人命を犠牲にした。やがて自然の大異変は、英仏海峡をまたぐ幅100キロメートル以上の地盤の隆起として具現。英仏は完全に徒歩で縦断できる陸地となった。そんななか、最初に英仏を縦断したフランス人の29歳の若者シモン・デュボスクは、悪漢の手に落ちた婚約者イザベルを救うため、無数の無法者の天国と化した新たな大地を行くが。

 1921年のフランス作品。
 当然、創元文庫版で読了。

 大地が失われる『日本沈没』とは逆の発想で、英仏海峡の海底が地殻の変動によって隆起。新たな陸地が生まれる話。
 とはいえ新たな大地の誕生そのものは、その現象が起きて落ち着いたのちはもはやクライシスやサスペンスのネタにならないので、中盤からの物語は新天地出現の混乱のなか、略奪など蛮行を働く無法者たちが集う世界での、主人公たちの冒険行に切り替わっていく。
(要は、関東地獄地震後の『バイオレンスジャック』である。)

 あと一歩エロ描写に踏み込めば西村寿行の世界だという感じに、ルブランらしからぬ? 残酷で野卑なバイオレンス描写が続出するが、一方で最後までとことんマジメな主人公シモン、そして彼にからむメインヒロインやサブキャラクターたちの叙述がルブランらしくて良い。良い意味で、前世紀初頭のオトナのおとぎ話である。
 もちろん決して推理小説じゃないんだけれど、中盤などちょっとしたサプライズめいた味付けに、広義のミステリのテクニックを動員してるのも楽しかった。
(とはいっても、こーゆー風に神の御業で二つの国がいきなり繋がったら、そこで最初に生じるのはまともな経済活動や文化のより活発な交流なんかではなく、無法な犯罪行為だという大枠の文芸は、フツーにドライで冷めたルブランのケンゼンな人間観を如実に示していてステキ。)

 なお巻末の訳者あとがき、うん、ヒロイン観に関しては全く同感ですね(笑)。

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