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ミステリの祭典

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クライ・マッチョ

作家 N・リチャード・ナッシュ
出版日2022年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/06/15 05:09登録)
(ネタバレなし)
 アメリカのテキサス州。ロデオスターとしてはすでに盛りを過ぎた38歳のマイク・マイロは、所属するロデオ一座の経営者ハワード・ポルクから馘を言い渡される。だがそのハワードは失業したマイクに、メキシコ在住の別れたハワードの妻レクサのもとにいる、彼の実の息子ラファエル(ラフォ)をテキサスまで連れて来るように願い出た。その目的は元夫婦間の資産の駆け引きにからむもので、ハワードはラフォを連れて来ることを倫理的に問題とは思ってないが、世間的には誘拐罪が適用される危険性があった。ハワードは5万ドルの成功報酬を約束するが、一方で表向きは何の支援もできないと言い放つ。マイクはこの条件の中で、ラフォを連れてくるためにメキシコに向かうが。

 1975年のアメリカ作品。もともとは作家兼脚本家の作者ナッシュが映画企画用に著したオリジナル脚本だったが、どこの映画会社にも売れずに小説という形で刊行したらしい。2021年に当年91歳のクリント・イーストウッドが話を相応にアレンジしたのち映画化(日本では本年2022年に公開)したが、この新作映画にあわせて原作小説も発掘翻訳された。イーストッドは40年前にも本作の主演を打診され、その時は、まだ自分がこの役を演じるのは時期尚早だと断ったそうな(他にも本作は、シュワルツネッガー主演で、映画化の予定もあったようだ)。

 ベテランのロデオスターだった主人公マイクだが、私生活では多様な屈託があり、さらに十代や二十代前半がメインで活躍のロデオ界でベテランということは、お払い箱寸前のロートルとほぼ同意語。栄光の座が加速的に曇っていく前半の描写はかなり生々しく痛ましい。人生を器用に切り替えられない者の痛みがヘビーな作品だ。
(主役マイクの周辺には、もっとジジイながら小狡く立ち回れる者もいれば、もっともっと悲惨な状況の者もいて、さまざまな人生模様が浮き彫りにされ、主人公の今の境遇を多角的に相対化する。)

 だが中盤、物語がメインストリームのメキシコ行~テキサスへの帰途についてからはもうひとりの主人公である少年ラフォとの絡みが、この手のロードムービー調の物語らしい、しかし独特の活気を帯びてくる。
 はじめは距離を置き合い、しかし次第に互いに絆を感じて来るお約束の展開ながら、道中の挿話のひとつひとつに起伏とバラエティ感があって読みごたえもたっぷり。
 二日間かけて読んだが、気が付くと後半は本当にあっという間に読了してしまった。
 
 いわゆるミステリ味は希薄だが、主人公の行為は法律の公認を得ない誘拐行為とみなされ、警察とのチェイスや拘留劇なども用意されている。
 二人の主人公にはほとんど背徳感もないが(インモラルを問われるとしたら、ラフォのオヤジと母親の方)まあその程度には薄口のクライムノワールで、かなり間口の広いミステリジャンルの一角にはあるとはいえるか。

 なんにせよ、読んで良かった一冊ではある。
 クロージングの仕方にはもしかしたら賛否両論あるかもしれないが、評者は共感や肯定というより、了解、納得しながら本文最後のページを読み終えた。 

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