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ミステリの祭典

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時間の王

作家 宝樹
出版日2021年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 糸色女少
(2022/06/14 22:44登録)
時間テーマはSFでも人気のジャンルだが、この作品は時間もの7編を収めている。その内容やスタイルは、太古から未来に至る遠大な時の流れの断片を切り取り、人類の進歩と流転を描いた「穴居するものたち」や、店の看板料理を守るために時をさかのぼって三国志の英雄にその料理を食べさせようとする「三国献麺記」など、さまざまだ。
表題作「時間の王」は事故で植物状態に陥り、記憶している自分の過去に戻る特殊能力を発現させた男の物語で、彼はその能力でかつての受験の失敗をやり直したり、青春時代を満喫したりするが、一番の望みをかなえることはできない。少年時代の初恋の相手は、重い病で亡くなっており、過去に戻ったところで治療法がないので誰にも直すことができない。ところが...。
多くの人は自分の人生に「もしもあの時」という分岐点を持っている。しかし現実の人間は、時間をやり直すことはできない。時間SFの描く世界は、そんな私たちの心の痛みにそっと触れる。そして甘く切ない思いを抱えながら、一度きりの現実の大切さをかみしめることになる。

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