孤独な青年 |
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作家 | アルベルト・モラヴィア |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | tider-tiger | |
(2022/06/14 21:36登録) ~女性的で美しい外見をもつマルチェーロはトカゲ殺しに興じるなど残酷な一面があった。 ある日、マルチェーロは学校からの帰り道にタクシー運転手に声をかけられる。拳銃を飴に自分を誘惑するこの男をマルチェーロは殺害してしまった。~ 1951年イタリア作品。ベルトリッチの映画『暗殺の森』の原作。 自分の知る限りではモラヴィアの著作ではもっともエンタメ寄りの作品です。ミステリ要素の濃い作品と見せかけて実はそうでもありません。スパイものといえなくもありませんが、そこに入れるのは躊躇します。クライムノヴェルとも言い難いし、スリラーでもないでしょう。 イアン・バンクスの『蜂工場』が本作に影響されているという説がありますが、自分は否定派です。 邦題の『孤独な青年』はかなり見当違いのように思います。自分はイタリア語なんぞさっぱりですが、読後に本作の原題『IL Conformista』は『適合者』のような意味ではないかと憶測いたしました。正解は『順応主義者』だそうです。当たらずとも遠からずでした。 そういう話なのです。自分は異常な人間ではないかと異常なくらいに不安になり、周囲に順応しようとあがく青年の物語です。 本作の解説では『主人公のマルチェーロはファシズムに傾倒して』などと記載されていることがままありますが、この説明は間違いであると同時に誤読を誘発するように思います。マルチェーロがファシズムに傾倒していると思しき描写は記憶にございません。 マルチェーロの中ではファシズムと結婚が同義なのです。 すなわち、『普通』の象徴です。 自分はマルチェーロが総体的には異常人格だとは思えませんでした。唯一異常な点があるとすれば……。哀しいことです。 本作の主人公を好きだという人はあまりいないと思いますが、自分はどうしても嫌いにはなれないのです。 エピローグがいい。だらだらと続くエピローグは自分の中では減点対象ですが、本作のエピローグは長いけれども読ませます。 好きな作品ですが、点数は抑えめに。 |