アーモンド |
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作家 | ソン・ウォンピョン |
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出版日 | 2019年07月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | メルカトル | |
(2022/06/06 23:12登録) 扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく―。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。 『BOOK』データベースより。 本書はミステリではありません。まあ脳内ミステリーと呼んでも良いとは思いますが。脳内の偏桃体(アーモンド)が通常より小さい為、感情がほぼ変化しない主人公のユンジェ。それに伴い彼は一般的には生後3日で人は笑うと言われているのに、少年になっても笑ったことがありません。そんな彼の一人称で描かれる日常は様々な出来事や事件で埋め尽くされています。しかし、それはどれもドラマティックではありません、飽くまで淡々とした文章で進んでいきます。何故なら彼には感情がないから・・・。読後にあんな事もあったこんな事もあったと思い返してみると、如何にユンジェが波乱万丈な人生を送ってきたかが漸く理解出来て来ます。 感情がないとは、これ程人生を味気ないものにするのかという同情の様なものが其処で湧いてきました。果たして彼は人としてどう生きるのか、そして感情を取り戻し明るい未来を手に入れる事が出来るのか。 本当に翻訳された小説なのかと錯覚する程、日本人が書いたとしか思えない作品でした。訳者が素晴らしいのと原文が読み易いのとが相まってこうした秀作が生まれたのは非常に喜ばしい事であります。世界十三の国で翻訳出版されたのも頷けますね。尚作者に関しては訳者あとがきに詳しい。 |