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ミステリの祭典

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聖トレシア学院殺人事件
月山 翔シリーズ

作家 永田文哉
出版日2021年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/05/26 04:06登録)
(ネタバレなし)
 両親を事故で失い、一つ下の妹のみどりとともに神奈川県の祖父と祖母のもとに身を寄せた高校生・月山翔。彼は地元の我孫子湘南高校の3年生として、剣道部の部活動に勤しんでいた。そんななか、母校が近所のミッション系の女子高「トレシア学院」のフラダンス部を文化祭に招いて公演を願うことになる。だがそのトレシア学院の周辺で、とある変死事件が発生。さらに今度は明確な殺人事件が同校内で起きた。成り行きからアマチュア探偵として事件に関わっていく翔だが。

『レッド・サタン殺人事件』(永守琢也名義)『タランチュラ殺人事件』(同)、そして永田文哉名義での『黒い騎士殺人事件』に続く学生探偵・月山翔シリーズの第四弾。
 今回は作中のタイムラインが遡って、翔の高校時代、アマチュア名探偵としてのデビュー編が語られる<イヤー・ワンもの>である。

 小説技法はだいぶ上手くなり、さらには今風のBLラノベ的なくすぐり要素も盛り込むなど、書き手のテクニックはなかなか向上した感じ。

 ただしミステリとしては『レッド・サタン』『黒い騎士』のようなバカミスとしての破壊的なパワー(特に後者)が減じ、実にフツーの学園青春ミステリになってしまった感慨。
(評者はまだ『タランチュラ』だけは未読だが。)

 転落死のトリックも、欧米の某作家のものまんまだし(意識的にパクったかどうかは知らんが)、何より真犯人の動機のネタは2020年代になってまだコレをダイレクトに使うのか、といささか鼻白んだ。まあ風化させてはいけない主題なのであえて、というニュアンスかもしれんが。

 一方で各種ロジックの形成、小規模の(中略)トリックなど、細かい部分の作りこみはけっこう進歩している感じ。
 そういう意味では悪い作品ではないのだが、このシリーズに特に思い入れのない人に黙って単品でこれを読ませたら、あまりいい評価はもらえそうもないと思う。
 シリーズはまだまだ続くみたいだし、地味に応援してますので次回はもっと頑張ってください、という意味合いでこの評点で。

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