みじかい夜 |
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作家 | ロナルド・カークブライド |
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出版日 | 1977年06月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/05/23 06:04登録) (ネタバレなし) フィンランドの首都ヘルシンキ。アメリカ人の青年ジョウ・ベアードは、一人の美しい女性を捜していた。親しくなったエア・ホステス、ファイナ・スオマライネンの仲介で、土地の警察官トレルヴォ・ホルムストロムの協力を得たジョウは、目的の女性が「スヴェア・ダンドストロム夫人」の名前で双子の息子とともに国内のアウランコ湖の周辺に滞在していると知る。そんなジョウには、ある秘めた目的があった。 カナダ生まれの作家ロナルド・カークブライド(1912~1973年)による、1968年の作品。 日本では先にハヤカワノヴェルズで紹介されたのち、NV文庫に収録。現状でAmazonには元版のノヴェルズ版のデータ登録はない。 大昔に新刊のNV文庫で購入、ずっと何十年も積読にしておいたのを今夜いっきに読んだ。 ヒッチコックファン、往年の映画ファンには、もともと『ファミリー・プロット』の次にヒッチが映画化する構想があった小説として知られている。メインヒロインのスヴェア役にカトリーヌ・ドヌーヴの配役も内定していたらしいが、ヒッチの高齢による体調不良とともに企画が中座し、そのまま当人の逝去によって、幻の映画になったようである。 評者が買ったNV文庫版には「ヒッチコック映画化!」と大きく謳った帯がついている。先にノヴェルズで出ていた邦訳が文庫化されたのは、そのヒッチの映画化企画が早川に聞こえてきたタイミングだったからであろう。 NV文庫の裏表紙のあらすじでは、主人公ジョウがなぜ謎の美女スヴェア・ダンドストロム夫人を捜し求めるのか、いきなりネタバラシしてあるが、実際の本文ではその辺は中盤までヒミツ。今回のレビューのあらすじではもちろんその辺は伏せたし、これからNV文庫で読む方は裏表紙は見ない方がいい(ノヴェルズ版のあらすじがどうなっているのかは知らないが)。 正直、途中までは結構ヤワい感じの歯応えで、なにこれ、ハーレクイン小説? かとも思ったほど(といいつつ、評者はマトモにハーレクインものを読んだことはないので、あくまでイメージだが)。それくらい悪い意味でメロドラマ要素を濃く感じた。あと、フィンランドの現地描写に筆を費やした旅行記ものの感触ね。 とはいえ後半、物語のベクトルがはっきり見えてからはなかなかテンションが上がるし、予想以上に並べ立てられていく小説的デティルの細かさ、そして登場人物の関係性の変移ぶりにはグイグイ引き込まれていく。後半は普通に面白いし、それなりに読みごたえがある。 ジャンルで言えば広義のスパイ小説。 とはいえ、あのマクリーンも本書を読み、フレミング以上の作家と激賞したらしいが、それでもあえてこの作品はスパイ小説ではないとも言っている。まあその見識もわかる、グレイゾーンのカテゴライズだな。 作者カークブライドの英語版Wikipediaを覗くと、その後、そんなにミステリを書いた訳でもないらしいまま、本書の5年後に60代初めの若さで他界。 映画のシナリオ作家としても活躍したらしいので、どっかでそっちの方で縁があるかもしれない。 末筆ながら、ヒッチコックが興味を持ったというのは、なんとなくわかる、そんな内容。 佳作の上か秀作の中~下というところかな。作中にラップランドの地名が何回か出てくるので、大島弓子ファンの評者は大好きな作品のひとつ『いちご物語』を思い出してちょっと顔がほころんだ。 評点は0.25点くらいオマケで。 |