home

ミステリの祭典

login
天空の密室

作家 未須本有生
出版日2022年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/07/02 16:04登録)
(ネタバレなし)
 令和X年。有人ドローン「エアモービル」の開発と本格的な商品化を目指す「モービルリライアント社(MR社)」の開発チームの面々は、試作三号機の完成までにこぎつけていた。そんななか、湾岸の35階建ての高層ビルの屋上で、トランクに入った女性のバラバラ死体が見つかる。だがそこは監視カメラと警報装置に守られた一種の密室だった。

 初読みの作家だが、なんとなく名前がソレっぽいので新本格系の新人のお一人かと読む前は思っていた。やがてそれは勘違いで、だいぶ前に松本清張賞を受賞し、航空業界を舞台にした広義の連作ミステリシリーズでの著作も多い方だとわかる。
 さらに評者が本作の読了後にTwitterを覗くと、作者ご本人がよく呟いており、新本格系の作りすぎたありそうもない世界はあまり好きでない旨の発言もされていた。う~ん。

 実際、本作もその題名から、一人乗りの内部操縦型のエアカーが離陸したら、着陸するまでに中の操縦者が殺されているとかいった、ホックのサム・ホーソンものみたいなのを予期したが、死体が見つかる現場(広義の密室)が高所であることに、そういったケレン味的な方向での意味はない。
 さらに本作の読みどころもフーダニットパズラーというよりは、エアカーの製作・開発を目指す主人公たちの「プロジェクトX」的なノリの企業群像ドラマ。ミステリはその付け足し……などでは決してないが、少なくとも作者の本当に書きたいものはそっちというより、航空業界への進出をはかる新勢力メーカーの奮闘譚という印象。

 まあこれはこれで、まさに21世紀の清張か、はたまた梶山季之みたいな感じで新鮮に思えた(現行作品でそういう傾向のミステリ作品もなくはないのだろうが、評者はあまり縁がない)。

 途中でこれはさすがにミスディレクションなんだろうな? と思いながら読んだ箇所もあったが、作者のミステリの作り方が我流っぽいので(勝手な印象ですみません・汗)、もしかしたら天然でやってるのかもしれないと、妙な緊張感のなかで読み進めた。なかなか滅多にない体験ではある。

 トータルとしては、プロジェクトX風群像ドラマ>ミステリという前述の印象はそんなに変わらなかったけれど、まあこれはこれでいい。
 たまにはこういうものも面白かった。

 ちなみに被害者は最悪にイヤな人間で、久々に、殺されてザマアミロ、というフキンシンな感慨を覚えた(笑・汗)。まあ良くも悪くも、それだけわかりやすい明快なキャラクター造形ということだが。

 評点はこんなものだが、悪い数字としてではない。

1レコード表示中です 書評