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ミステリの祭典

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悪魔黙示録
別題『悪魔の黙示録』

作家 赤沼三郎
出版日2011年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/05/20 06:24登録)
(ネタバレなし)
 その年の8月7日の夜。雲仙の「白山ホテル」37号室の浴室で「日華貿易洋行」の現社長・立花良輔の美貌の妻、鳴海(なるみ・28歳)が何者かに惨殺された。やがて容疑は同じホテルに泊まる富豪の令息で、鳴海の不倫相手と目された26歳の青年・寺崎宏に向けられた。寺崎が自殺を図ったことで、逮捕を逃れられないと覚悟した彼がやはり真犯人なのだろうと思われるが、「大阪××新聞」の通信部主任・松山一也はまた違う方向に疑念を向けた。そして間もなく立花家の周辺では、さらなる事件が展開する。

 昭和13年に「新青年」4月増刊号に一挙掲載された、原稿用紙250枚のごく短い長編。もともとは昭和8年ごろから創作活動をしていた作者・赤沼三郎が、春秋社主催の「第2回長篇探偵小説懸賞募集」(昭和13年?)に応募して入賞した作品。当初は原稿用紙500枚の長編だったが、出版が不順になったそうで、あの大下宇陀児が後援。その宇陀児の提言で分量をおよそ半分に短縮したのち「新青年」に掲載された。その後80年以上、世の中に出回っているのはこの短縮バージョンのみのはずである(誤認があったら、ご指摘ください)。
 
 評者は今回、その短縮バージョンを「長編読切」と銘打って一挙掲載した雑誌「幻影城」の1977年10月号で読了。
 ストーリーが短縮されたこともあってかお話はサクサク進み、文章はほんのちょっと生硬な感じもあるがリーダビリティはなかなか高い。ミステリ的なネタもけっこう豊富なのだが、ハッタリの演出が少し弱いと思うのは、その辺が紙幅を刈り込まれた弱みかもしれない。何より作者がまじめに(中略)している分、犯人がバレバレなのは、悪い意味で戦前の旧作謎解きミステリだな、という感じ。

 とはいえ逆の見方をすればサスペンススリラー風に事件が続発し、中盤では殺害方法も不明な謎の殺人なども発生(科学考証的に疑問が残る面はあるが)。今の目から見れば愛らしいものながら、読み手へのミスリードなども用意されており、戦前のウワサの旧作(あえて名作とは言わない)に接する気分でいるなら、なかなか楽しめる作品でもある。犯人のキャラクターというか、動機の真相もちょっと面白いかも。

 実は正直、仰々しい題名から、どんなオゾマシイ作品かとも恐れてもいたが、全体としてはサスペンススリラー風味の普通のフーダニットパズラーであった。
 日本旧作ミステリ史をたしなみ程度に探求するつもりで、たまにはこんな作品もゆかしい。評点は0.25点ほどオマケ。

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