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ミステリの祭典

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六番目の男

作家 フランク・グルーバー
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/05/15 16:10登録)
(ネタバレなし)
 いまだ、入植した白人の開拓民とインディアン(ネイティブ・アメリカン)との争いが各地で頻発していた19世紀半ばのアメリカ。1861年にテキサス州で起きた「飢餓の砦」の戦いで、陸軍に従軍していた5人の白人が無残な状況での戦死を遂げた。だがその犠牲者のひとりポール・スレイターの息子で、ハーヴァード大学の卒業生でもあるジョン・スレイター大尉は父の死の状況を調べるうちに、当時の「飢餓の砦」には誰かもうひとり、インディアン側に陣営の情報を教えた裏切り者「六番目の男」がいたはずだと確信を抱く。ジョンは当時の関係者、犠牲者の肉親などを訪ねて回り、情報を求めるが。

 1953年のアメリカ作品。
 日本ではポケミスにそっくりな早川の別の叢書「ハヤカワ・ポケット・ブック」(ほんとんど同じ仕様だが、フチの部分が黄色でなく緑である。叢書の整理番号も500番からスタート)の522番として、昭和31年5月15日(あ、今日だ!)に刊行。
 またAmazonの書誌データの表記が不順なので、ここに記しておく。

 大昔の少年~青年時代に、なんだポケミスじゃないのか、西部小説か、でもまあ、あのグルーバーだし、一応買っておくかと、どっかの古書店で購入した一冊。巻末の広告ページに鉛筆で、300円の値段書きがある。
 当時の自分、ありがとう(笑)。

 というわけで、ウェスタンにミステリの要素を盛り込んだ作りということで、結構、ミステリファンにも知られた作品。まあグルーバーのサム&クラッグものも、時代設定は刊行当時の現代ながらウェスタンっぽいものもあるし、評者がまだ未読の『バッファロー・ボックス』なんかもソレっぽいと聞いたような気がする。いずれにしろ、ミステリ作家と同時にウェスタン作家でもあったグルーバーにすれば、双方の要素の融合なんかお茶の子さいさいだったのであろう(どーでもいいが「お茶の子さいさい」って、生まれて初めて使ったような気がするな~笑~)。

 本文は160ページとちょっと薄目だが、中身は主人公のジョンが惨劇の関係者を訪問して回り、そのロケーションごとに起きた事件を並べていくオムニバスに近い構成。話に立体感がある分、なかなか読みごたえは感じた。それで最初の方で登場した関係者がまたのちの話で出てくることも随時あり、そんな人物の出たり入ったりの繰り返しの中でジョンは事件の真相に近づいていく。

 そういう訳でちゃんと長編ミステリとしての構造も備えている。別のミステリファンの感想サイトで、ウールリッチ(の連作短編集風の長編)っぽいというレビューもあったが、自分も読んでる最中に、それは想起した。

 ジョン・スレイターが、よく私立探偵小説にあるような訪問~質問の流れで関係者に接する場合もあれば、いかにもウェスタンらしいガンマンめいた接点で途中の挿話をスタートする場合もあり、その辺のメリハリはかなり面白い。特に後半「飢餓の砦」の事件とは直接関係ない、しかしかなり大掛かりな犯罪計画に巻き込まれるあたりは、当時はこんなことあったのか!? という感じでかなりワクワクハラハラさせられた。
 
 どちらかというとウェスタン小説としての面白さが強かった気もするが、それでも終盤にミステリとしてのどんでん返し&サプライズはきちんとある。まあ評者の場合、カンである程度、読めた部分もあったが。
 
 西部劇映画なんか体系的にほとんど観たことのない評者でもかなり楽しめた一作(逆に、ウェスタンの素人だからこの手のものが新鮮に思えて面白かった可能性もあるが)。前述のようにミステリ部分もそれなりだし、ウェスタン設定の大枠そのものも普通に十分に面白い。
 古書店で安く出会えたり、図書館や知人から借りられるなら興味ある人にはオススメ。
 
 なお映画版(1956年のユニヴァーサル映画作品)のDVDが、廉価で数年前に出た。入手はしてあるが、これは先に原作を読んでから観ようと思ってまだ未見。映画のあらすじを読むとキャラクターシフトなど、相応に原作からの潤色がされているようではある。いい意味で白紙の気分でそのうち、観てみよう。

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