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ミステリの祭典

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夜の訪問者

作家 リチャード・マシスン
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/05/07 05:38登録)
(ネタバレなし)
 カリフォルニアでレコード店を経営する30歳代の青年クリス・マーティンは、愛妻ヘレンと6歳の娘コニーとともに平凡だが幸福な日々を送っていた。だがある日、一本の電話が入り、回線の向こうの相手はクリスの名を「クリス・フィリップス」と呼んだ。クリスが封印していた15年前の記憶が、悪夢のような現実のものとなる。

 1959年のアメリカ作品。
 マシスンの第四長編で、スーパーナチュラルな要素は皆無のサスペンス・スリラー。
 日本では、本作をベースにしたチャールズ・ブロンソン主演の映画『夜の訪問者』(テレンス・ヤング監督)の公開に合わせて邦訳された。
 Amazonのデータ表記がまた不順だが、たぶん1971年に初版が刊行。たぶん、というのは評者が読んだハヤカワ・ノヴェルズは再版で、この時期の同叢書は重版の場合、奥付に初版の刊行日を記載しないため。その再版は71年の10月31日に刊行されている。

 物語の設定は、主人公のクリスが15年前のハイティーン時代に出来心で加わった宝石強盗に端を発する。そのクリスの預かり知らないところで殺人事件が生じ、仲間3人が捕まった。クリスひとりはずっと逃亡していたが、逮捕されて終身刑を食らっていた仲間たちが数年前に脱獄。そのうちの一人が、一人だけ捕縛を逃れていたクリスのもとに、お前だけ自由でいやがってと、半ば逆恨みで報復に来るのが、序盤の流れである。

 クライシスが波状攻撃風に連続し、しかし目次を見ればわかるように、わずか(中略)という短い時間の中で終焉するサスペンスストーリー。
 一気読みで二時間もかからず、読み終えてしまう(まあページ数が200ページ強と短めの上に、活字の級数も大きい体裁だし)。

 訳者の小鷹信光(映画公開に合わせるため、片岡義男に本文の半分、翻訳の実働を分担してもらったらしい)が解説で語るように、平凡な市民の家庭のささやかな日常が瓦解していく「ドメスティック・スリラー」の一編で、とにもかくにもページタナーの作品なのは事実。

 ただ細部についてこだわるなら、15年前に捕まった仲間の3人がひとりだけ逃げのびた仲間クリスについて警察にどう話していたのか、そしてクリス自身は警察の捜査をどのように考えていたのか曖昧なので、この辺はきちんと叙述しておいて欲しかったところ。

 とにかくあっという間に読んでしまう一冊で、読者の鼻面を掴んで引き回すマシスンの剛腕ぶりは改めて実感した。
 主要登場人物もほとんどクリス一家と悪党トリオの、計6人だけだが、その周辺で些細な事態のこじれ具合(夫婦の絆のひずみ、悪党側の意識のズレなど)を積み重ね、テンションを巧妙に高めていく手際がさすがである。
 
 なお評者は映画版は未見だが、小鷹の解説によると大設定のみ借りて、相当に別もののアクション編になっているらしい。まあ素直にこの原作を読んで、ブロンソンのイメージはまったく浮かばないね。
 一時期は古書価がけっこう高かったが、最近ではやや落ち着いてきたようである(それでもプレミア価格だが)。お安く出会えたり、図書館で借りられたら、興味ある向きはどうぞ。

 評点は0.25点ほどオマケ。

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