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ミステリの祭典

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死が議席にやってきた

作家 フランシス・ホブスン
出版日1964年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/04/30 07:13登録)
(ネタバレなし)
 1950年代後半(おそらく)の英国。原子力工場調査代表派遣団の一員として、ドイツに査察に行っていた下院議員ハーヴェイ・クローズが、国会議事堂の議席で死んでいるのが、会議終了後に発見される。帰国直後のクローズは何者かに毒殺された可能性があり、彼は何か重大な秘密を首相にひそかに伝えようとしていた節があった。クローズの死ぬ直前、彼と接触したのは新聞「エコー」紙の政治記者である青年ジェイムズ・ウォルター・ギブスだが、そのジェイムズに、富豪のマーヴィン・ブラウン准男爵が接近。ブラウンはジェイムズを法外な高給で自分の企業にスカウトする。准男爵は死ぬ前のクローズが何か機密をジェイムズに預けたと思い、ジェイムズを雇い入れるふりをして、その秘密の入手を図っているようだ。一方でジェイムズの愛妻ローズメアリイにも、怪しい一味の手は伸びてきた。

 1959年の英国作品。
 本書は英国での発売直後に米国でも刊行され、アンソニー・バウチャーの称賛を受けたらしい。が、作者はどうやらミステリ作家としてはこれ一冊で消えてしまった(?)らしく、当然、翻訳もこのポケミス一冊しかない。
 ポケミスの表紙上部に「コメディ・スリラー」と謳ってある通り、英国風のドライユーモアが端々にまぶされた巻き込まれ型スリラー(広義のスパイスリラー)で、お話そのものは良くも悪くもその手の水準作。

 それでも主人公ジェイムズがブラウン准男爵の美人秘書マーサ・バートンのハニトラに対抗する辺りとか、ジェイムスの所属する新聞紙「エコー」の上役連中が、殺人容疑の醜聞をこうむりかけた部下ジェイムズの窮状に際して会社の不利益にならないかとその辺の薄情な思惑ばかり抱くあたりとか、その種の大小のドタバタはなるほど結構、面白い。たとえるなら円熟期のヒッチコックのB級作品を楽しむような興趣は、味わえる。

 本文200ページ足らずでストーリーもそれほど広がらないため、あっという間に読み終えてしまうが、小味なユーモア・サスペンス・スリラーとして悪くはない、というかまあまあ楽しめた。
 いくつかアバウトな個所もあるような感じだが、そこら辺は個人的にはクスリと笑ってスルーできる範疇。
 一冊読んだからと言って、何がどうなるわけでもない作品だが、旧作の海外ミステリ、エンターテインメントとしてこーゆーのもありだ。

 なおポケミス92ページ下段の「他人が休んでいるときに仕事をすると、人間というものはいつも、なにか善行を果たしているような、快い喜びを感じるものである。」という一文には全く同感。 
 さてみなさま、ゴールデンウイークのご予定は、いかがでしょうか?
 評者は溜まっているお仕事を横目に、好きなことをしながら、いつものようにミステリ読めればいいなあ、と思います(汗・笑)。 

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