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ミステリの祭典

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亡命客事件

作家 大下宇陀児
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 おっさん
(2022/04/23 14:25登録)
あ、宇陀児(うだる)、やっぱり小説うまいわ。
そんなことを改めて感じさせてくれる、湘南探偵倶楽部さんの、今年2022年、最新の復刻本です。
初出が『新青年』昭和二年二月号という、短編作品ではありますが、春陽堂の『探偵小説全集(3)大下宇陀児集』(昭和四年)を底本にして、表紙裏に同書の書影、表紙に「事件の舞台となった天下の奇勝 木曽川 寝覚ノ床」のカラー写真を刷り込み、ストーリーに即した列車の路線図を付録に添えるなど、作り手の熱意が伝わる一冊になっています。それだけに――校正が不充分で、字下げの不統一といったミスが散見するのが、本当に残念。割高になっても、そこだけは、外部委託でカバーして欲しかったなあ。

長野県内と思われる、温泉町に逗留中の「私」は、その首に三千円の賞金がかかっていると自称する、支那からの亡命客・洪さんと知り合い友誼を結ぶが、洪さんはある日、観光のため列車で町を出たまま消息を絶ってしまう。やがて、浦島太郎伝説で知られる、寝覚めの床の渓谷で発見された、洪さんと思しき首なし死体。支那からの刺客の仕業か? しかし、「私」の友人である、弁護士・俵巌(たわら がん)の推理で、まったく別な人物が拘引されることになり……。

ミステリとしては、ベタもいいところでしょう。定石通り。
でも、そんなベタな素材で、ちゃんと読者を楽しませ、心に残るストーリーを構築できているのが、宇陀児の非凡なところ。導入部の、洪さんというキャラクター(陽気でいながら、故国に対する思いは熱い)のスケッチがいいんですね。
終盤の展開が駆け足にすぎる嫌いはありますが、ラストは、綺麗に決めてくれました。
初期短編で、このレヴェルのものが埋もれているというのは、正直、嬉しいオドロキでした。発掘してくれた、湘南探偵倶楽部さんには感謝(その念を込めて、採点は一点オマケ)!
奥付を見る限り、編集・制作にあたられているのは、お一人のようですが……くれぐれも出し急ごうとはなされずに、悔いのない本を残していって欲しいと、願わずにはいられません。

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