階段の家 |
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作家 | バーバラ・ヴァイン |
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出版日 | 1990年06月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/04/15 15:35登録) (ネタバレなし) 1980年代。「私」こと39歳の中堅女流作家エリザベス(リジー)・ヴェッチは、長い刑務所暮らしの末に出所した、かつては美貌だった友人ベル(クリスタベル)・サンガーに再会する。ベルは、少女時代に母ローズマリーを失ったエリザベスが、本当の母親のように接していた未亡人コゼットの屋敷「階段の家」に集う若者の一人だった。エリザベスの胸中に、長い歳月を経た1960年前後の日々、あの当時の記憶が甦る。 1988年の英国作品。 レンデルのバーバラ・ヴァイン名義の長編第三弾。 ……猥雑で重厚な叙述の積み重ねには、もちろん意味があるとは思うのだが、事件らしい事件が生じずに日常のなかでの人間模様が連綿と継続し、そして登場人物は名前があるものだけで、最終的に70人近く。 何より1960年代の回想と80年代リアルタイムの記述(ともにエリザベスの一人称、本書の60年代パートは彼女が書き記している小説、という設定のようである)が縦横に錯綜するので、読み進むのに相当にカロリーを使う。 いや決して読んでいる間はつまらない訳ではなく、あー、小説らしい小説に付合っているという歯応えが、ある種の快感になっているのだが、一方で粘度の高い水でいっぱいのプールの中を果てしなく泳いでいるような疲労感が次第に溜まってくるというか。 (主人公エリザベスのとある肉体上の事情にも、かなり重い設定が用意されている。ここでは詳しく書かないが。) まあすべては終盤にドラマが爆発するための「タメ」であることもわかっているので、そのつもりでとにかく付き合う。一時期の主人公が耐えて耐えて最後に敵陣に殴り込み、カタルシス昇華という高倉健映画みたいじゃ(実は健さんのヤクザ映画はよく知らんのだけど、なんかのミステリのレビューでそういうレトリックがあってオモシロかったので、今回ここで、マネしてみる・笑)。 で、お話は、終盤3分の1ほどで、キーパーソンのひとり、売れない美男俳優の青年マークが出てきてからいっきに加速。最後のミステリ的なサプライズはいかにもヴァイン(レンデル)っぽい感じで、ある種のミステリの定型に彼女なりの挑戦をした趣がある。細かいものを含めれば、三重四重の驚きがあり、さすがにクライマックスは十分に面白かった。 クロージングの、いかにもボワロー&ナルスジャックの諸作に通じるような余韻ある締め方も、色々なことを思わせてくれて○(マル)。 それにしてもとにかく読むのに疲れた。しかしよくあることだが、読み終わるとその疲労感に苛まれていた時間がなんとなく懐かしくなってくるタイプの作品。本当にツラかったときは、あーもう評点4点でもいいや、とも思ったが、最後まで読むと、そして読み終えて半日経った今となってはそれはない。 こういう作品を読むのも、ある種の贅沢ではあるな。 |