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ミステリの祭典

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生きていたパスカル

作家 ルイージ・ピランデッロ
出版日1987年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 弾十六
(2022/04/14 19:51登録)
1904年出版。雑誌連載Nuova Antologia1904年4月〜6月。福武文庫で読みました。
トリッキーで人工的な設定の戯曲で有名な作家なので、そんな感じなのかな、と思ったら、実に地に足がついた語り口です。作者の長篇小説第三作で、これが成功し、ある程度の国際的評判も得られたようです。革命的設定の戯曲で有名になるのは第一次大戦後。
本作は推理味はありませんが、本書のシチュエーションは探偵小説でも良くあるネタなので、ミステリ・マニアにも興味深いのでは? (私は『大統領のミステリ』の先回りしたある種の回答ではないか、とも考えています) 当時の流行、降霊術も登場し、ちょっとした犯罪も出てきます。冒頭で「私は二度死んだのだ!」と告白してるので、そこ迄はネタバレではないのでご安心を。
原文は伊Wikisourceから入手、イタリア語は超基礎しか知らないのでgoogle翻訳の力を借りました。
作中現在は、語り手が本書を書き始めたのが1902年5月以降(p14)、及び完成まで半年かかった(p420)という記述あり。最初の事件(事件A)は記録を書いてる時点の二年数か月(p394)以上前。p187(事件Aの1年数か月後、事件Aの後の二度目の冬)に1896着工で1901年5月開通の橋が「工事中」として登場するので、事件Aが1895年春〜1899年秋の範囲であることは確定。1000リラ紙幣(p122)は1897年12月以降なので、事件Aは1898年か1899年。「28日土曜日」(p125, 事件Aの日付)は1898年なら5月、1899年なら1月か10月、事件Aの数か月後が「11月」(p162)なので、事件Aは1898年5月が最も適切だろう。(2022-4-15追記: と考えていたが、読み直して、事件Aは1899年10月だと考えるようになった。p165参照)
現在価値は、伊国金基準1898/1901(0.969倍)&伊国消費者物価指数基準1901/2022(9170倍)で1リラ=€4.59=605円で換算。
p9 一日2リラ◆町の図書館員の日給。
p14 アンティーユ諸島のあのちっぽけな災難(quel piccolo disastro delle Antille)◆訳注無しなのだが、年代確定には重要な情報。1902年5月8日、フランス領アンティル(仏Antilles françaises)のマルティニーク島にあるプレー火山(仏Montagne Pelée)が噴火。山頂の溶岩ドームが破壊され、火砕流によって山麓のサンピエール市で約28,000人が死亡、街は壊滅状態になった。
p15 街灯に火を入れない夜(non fa accendere i lampioni)◆満月の夜に、町の燃料代を節約するためか?
p27 ありとあらゆる種類の地口◆例示あり。
p69 月42リラ… 持参金からあがる利息◆月額25410円。
p78 月60リラ◆司書の月給。p9と同じ。月額36300円。
p82 カーチョ(cacio)◆訳注 チーズの一種
p88 五百リラ◆仕送り
p91 アメリカ行き◆イタリア人にとっては希望の国だったのだ
p117 ピストル◆当時のイタリア軍の制式拳銃はBodeo Model 1889(10.35mm口径, 232mm, 950g)だが、民間に流通していたのだろうか。ここに登場しているのはなんとなく米国製の拳銃のような気がする。
p122 千リラ紙幣◆イタリア銀行(Banca d'Italia)が千リラ紙幣を最初に発行したのは1897年12月。
p122 四十チェンテージミ(centesimi)◆リラの1/100の単位centesimoの複数形
p123 二百三十万フラン◆仏国金基準1898/1901(0.993倍)&仏国消費者物価指数基準1901/2022(2744倍)で1フラン=€4.16=548円で換算。230万フランは12億6千万円。
p125 二十八日土曜日
p144 キリストはこのうえもない醜男
p162 まだ三十年ぐらいは生きてゆける◆人生50年くらいと考えると当時二十歳くらいなのか。
p162 十一月◆ここらへんの描写で事件Aから数か月以上、経過していると思われる。
p163 二十五リラ◆犬の値段
p165 二度目の冬◆p162からすぐの時点の描写。ということは、私は勘違いしていたのだがp162の「11月」は事件Aから一冬越した二度目の冬のこと。続けてこの場面は事件Aから「一年の間(in quell’anno)」と書いている(少なくとも一度目の冬から二度目の冬までの一年は経過している)ので、事件Aは5月より10月が適当だろう。(2022-4-15追記)
p181 電車賃の十銭(due soldini della corsa)
p187 すぐ間近には、古いリベッタの橋と、そのわきにこしらえている新しい橋、そしてその先にはウンベルト橋(ponte di Ripetta e il nuovo che vi si costruiva accanto; più là, il ponte Umberto)◆この建築中の橋を探したら、Ponte Cavourが見つかった。1896年着工で、開通は1901年5月25日。橋の名前はCamillo Benson, conte di Cavour (1810-1861)による。
p189 敷金(caparra)◆保証金、手付けの意味らしい。ここは「手付金」で良さそう。敷金というと日本独特の制度のような気がする。
p193 六千リラ◆家財道具を売って得た金
p201 心配と苦労とみじめなことばかりの五、六十年(cinquanta, sessant’anni di noja, di miserie, di fatiche)◆人生の長さを意味しているようだ。当時の平均寿命か。
p217 あなたはなぜ、せめて口髭でもお生やしにならないのか◆当時の成人男性は髭を生やすのが当たり前だったのだろう。
p317 六百リラ◆医者の報酬のようだ
p394 二年数カ月◆事件Aから、この場面までに経過していた時間
(2022-4-15追記: 1921年6月発表の『空想力の周到さにかんする覚え書』が最後についていて、JDCの本文に対する脚注、みたいな感じで面白かった。)

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