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ミステリの祭典

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こだま446号の死者

作家 沼五月
出版日1987年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/04/11 19:50登録)
(ネタバレなし)
 その年の4月22日。東京に向かう新幹線「こだま446号」のトイレで、刺殺された男の死体が見つかる。だが当日の乗客の証言をまとめると、死体は静岡駅周辺で一度トイレに出現。その後、一度消失し、新横浜周辺でまたトイレに現れたようであった!? 二度目の死体の発見者で都立高校の日本史教師、足立敬介は、大学時代の友人・武田とともに、また別の学友・芝川直哉の結婚式に出た帰りだった。さらにこだま446号には、足立の同僚である若い美人の体育教師・香島菜々子も乗り込んでおり、足立は彼女とともにこの事件の謎に関わっていく。

 沼五月は1986年に『松本城殺人事件』でデビューしたミステリ作家で、基本的のノンシリーズのフーダニットパズラーを執筆。本作は作者の第三長編となる。新書判での書き下ろし。

 作者・沼は、ともに劇画や漫画の原作などを手掛ける男性作家・沼礼一と女性作家・五月祥子との、合作ペンネームという。
 たとえば、新幹線内で刺殺された被害者で、大手デパート従業員だった岸本功一があざといほどにイヤな狡猾な性格の人物として描かれ、その悪辣な奔放さゆえ、多くの容疑者が周囲に浮き上がっていく展開など、なるほど、とにかく見せ場で読者の興味をひっぱる書き手らしい雰囲気はある。

 序盤からの消えてまた出現した死体の謎、さらに進展してゆく殺人事件など、ミステリ的な趣向もそれなりだが、終盤の謎解きと意外性の演出はなかなか良く出来ている感触。ただまあ、死体出没のトリック? 真相? など、まあこんなものだろという面もある。あと、フーダニットパズラーの謎解きで(中略)は禁じ手にしてほしいとするタイプの読者が読んだら、評価はキビシイかも?
 それでも個人的には、思っていた以上に歯ごたえを感じた一冊。一読すると、物語の流れに絡んでくる(1980年代当時の)デパート業界などの妙な耳知識が増えるあたりも、ちょっと楽しい。

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