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ミステリの祭典

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吸血の祭典

作家 高木彬光
出版日1996年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2022/04/03 16:34登録)
「刺青」とか「人形」とか「白昼の死角」とか置き去りに、ゲテモノ系ばっかり評者はやっている....けどね、70年代に高木彬光を読んでいた読者のリアルな作家の「空気」みたいなものも、やはり伝えるべきものではないか、と思うのである。
で、大体70作くらいある怪奇実話系短編が、15冊ほどの短編集にそれぞれ重複しながら収録されているわけだが、その中で一番収録が多くてしかも出版が新しくて入手しやすい便利な本なので、これをやることにした。
(だからすでに書評がある「猟奇の都」と一部内容がカブります。)

ミステリ色の強い「ロンドン塔の判官」もあれば、西洋講談といった趣の「ダンチヒ公の奥方」「マタ・ハリ嬢の復活」もある一方、「ムー」的なオカルトの「空飛ぶ円盤」もあれば、それこそ中岡俊哉みたいな「スマトラの妖術師」といったショートショートくらいの怪異譚もある...と、結構多彩な「世界の怪異」をコレクションした短編集である。
いや「ムー」だって学年誌でのオカルト記事が好評だったことで70年代末に創刊したしたわけで、こういう「ムー」的要素と高木彬光、というのもけして無縁ではないわけである。ホントかウソかわからないなりに、オカルトを「消費」する下地のようなものが、この時代に商業的に成立し、その流れを作り出した人々の中に、高木彬光も含まれることになるわけだ。

で、評者はこの中の一編「王国を手にして死んだ乞食」が記憶の片隅にずっと引っかかっていて、それを確認できたのが個人的には大変うれしい。「最後には、ソロモン王以来、それ以上の富は世界にないというぐらいの金を掌に握りながら、乞食になって餓え死にする」という奇怪な予言を受けた男、ジョン・サッターの話。サンフランシスコという街自体が、そもそも不法占拠によって成立したことを裁判所さえも認めたからにはサッターに「法的権利」はあるのだが、その「権利」を誰も認めないことで餓死する今様ミダス王の話。

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