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ミステリの祭典

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復讐のコラージュ

作家 福本和也
出版日1983年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/03/30 04:46登録)
(ネタバレなし)
 昭和の後半。証券会社の辣腕調査員だが、冴えない風体の中年・詫間伊平は、秀才の中学生だった息子・美津夫を、放蕩者の大学生・瀬島博の乱暴な運転でひき殺される。博の父親の瀬島恭三は一流企業の常務で、金の力と弁護士の手腕で息子の失態を丸め込み、さらに伊平を失職に追い込んだ。そして伊平の美人妻だが悪女である美津子も夫を裏切り、恭三の愛人に収まった。厚顔かつ豪胆な恭三は、妙な縁で知り合った伊平の調査能力を高く評価し、自分の野望を果たすための飼い犬として使おうとする。大事な息子・美津夫を殺した若者の父ながら、罪悪感のかけらもない恭三に対し、伊平は恭順するふりをして、最大の打撃を与える機会を狙うが。

 主人公・伊平の復讐の冷えた熱い情念、副主人公といえる恭三の野心の驀進などを軸に、色と欲にまみれた昭和クライムノワール。
 自分は徳間文庫版で読了。

 梶山季之や黒岩重吾、あるいは菊村到あたりの諸作に近い路線だとは思うが、評者はあまり詳しくない(関心はある)ので、正確なことは語れない。いずれにしろ、21世紀のお堅い女性読者などは絶対に手にも取らないであろうピカレスク群像劇である(今ではこういう物言い自体が、よろしくないのかもしれんが・汗)。

 ただし<そういうもの>を、(それこそ評者のように)とりあえずウェルカムとして楽しめるのなら、なかなか読み応えのある作品で、正直、予想以上に面白かった。もちろん推理小説でもなんでもないが、広義のミステリには十分なっているとは思う。
(まああえてミステリのレッテルにこだわらず、いわゆる中間小説として読んでいいようなタイプの作品だが。)
 じわじわと罠や策略をしかけ、周囲の人間をコマとして使う怪しい面白さ、醜く弱く、しかしホンネ剝き出しの各キャラの動静、それらが築き上げていく猥雑な読み物のパワフルさが、なんというか、福本和也ってここまで書けるヒトだったのね、という感じであった。

 たぶん周囲の協力を得たり、資料を読み込んだりしたんだろうけど、ストーリーの流れの上で、各種業界や当時の経済状況などにも話題が広がっていく。 
 この辺、入念な取材の結果が活きた感じで、読み進むこちらの方も、雑学的に妙な知識が増えていく気分でオモシロイ。菊池寛が言ったという「小説とは要は面白くてタメになる本のことなのだ」という至言をひとつの形で具現化したような感触さえある。いや、あくまで通俗小説で通俗ミステリだけれどな。

 終盤、まとめ方がちょっと尻切れトンボっぽいが、これはこれで狙った演出で、作品の味なのでもあろう。奇妙な余韻を感じたりもした。
 
 正直、しょちゅう読みたいタイプの作品ではないけれど、自分のような俗人はこういう作品もたまに読むとすごく面白がれたりする。秀作。

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