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ミステリの祭典

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白死面と赤い魔女
「赤い魔女」稲村虹子

作家 朝松健
出版日1994年03月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/03/27 15:26登録)
(ネタバレなし)
 バブル崩壊で不況まっさかりの1990年代前半。その年の2月22日、一人の青年が突如、顔をブルーのファンデーションで塗りたくり、平常心を失った通り魔の殺人鬼に変貌した。その青年・二俣公司の婚約者・宇佐美雪子から、真相の調査をしてほしいと請われた、カード占い師でオカルトライターそしてトラブルコンサルタントの「赤い魔女」稲村虹子は、助手の若者・鞍馬正浩や友人の新聞記者・田外竜介たちの協力を得ながら、事件に乗り出す。だがその後も都内には、第二、第三の蒼面の殺人鬼「白死面(ペールフェイス)」が出現した。

 作者お得意のオカルトアクションホラーものの一冊で、「赤い魔女」の二つ名の美女・稲村虹子ものの第一弾。先行する作者の別の人気シリーズ、やさぐれ記者・田外竜介ものからの同じ世界観を共有するスピンオフである(そもそも朝松作品は、あちこちのシリーズ世界同士のリンクが多いはずだが)。
 評者が一時期、菊地秀行のアクションホラーを読みまくっていた際、SRの会の年下の友人がそういうものが好きなら、こっちも読めといって、自分が読んだばかりの、この虹子シリーズの2冊目をくれた。それから数十年、そのままその2冊目を読まずに放っておいた(すまん)が、先日、部屋の中でその2冊目を発見。そろそろ読んでみるかと思ったが、どうせならシリーズの第一弾からと思ってネット注文で安い古書(本作『白死面』)を購入した。そんな流れ。

 評者は以前には朝松作品は、前述の田外竜介ものの第一弾『凶獣幻野』を読み(これもくだんの友人に勧められたのだと記憶)、こちらはそこそこ面白かった思い出がある。
 怪異な事件(けっこう派手な大騒ぎが、現実の世界に起きる)の背後にひそむ、その作品世界ならではの魔術・オカルトのロジックを解き明かしていく部分に割と比重が置かれているのが、朝松作品の特徴らしい(さっきから話題にしている友人はそこに惹かれているらしい)。

 本作でも『凶獣』でもそこは共通だが、本作の場合、形式としてはそうしたオカルトミステリ……いや、ミステリ風味のオカルホラーになっているものの、事件の真相となる秘密は存外に底が浅く、あまり盛り上がらないのが残念(ただし、事件の根源となった物語の瞬間のキービジュアルは、ちょっと印象的だが)。

 あと、改めて読んで朝松作品は悪い意味で筆が軽い。具体的には、劇中に明確な犯罪者でないものの、人格的には明確にクズな登場人物がひとり出てくるのだが、その人物が死んだと知った際に、虹子が嫌な奴ではあったけれど、ひとりの人間が死んだのだからと悼む意味で泣いたりする。
 いや、公然としたゲスが死んだからと言って、なんらかの感興が生じるにせよ、涙まで見せないだろう、フツー。そういうある種の感性が一般人と違うという意味で虹子のキャラ立てをしたいのなら、脇にワトスン役の鞍馬とかいるのだから、彼の視線で「(これだから先生はお人よしで……)」と苦笑させるとか、相対化させた演出をすればいいのに、地の文で虹子のイノセンスぶりを読者に訴えるものだから、読んでるこっちは困ってしまった。朝松作品、部分的に面白いところはあるにせよ、イマイチ人気が弾けないのは、こういうところによるものか? まあ、まだ二冊目で言うことじゃないかもしれんが。
 ストレスなく読み終えられるアクションホラーとしてはそこそこの面白さ。ただまあ、正直、そんなに騒ぐ作品でもない。

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