ビッグ・マン 別題『拳銃の掟』 |
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作家 | リチャード・マーステン |
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出版日 | 1976年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/03/27 04:36登録) (ネタバレなし) 「おれ」こと、小悪党の青年フランキイ・ターリオは、さほど気心の知れた間柄でもないチンピラ仲間のジョッポ(ジャンボオリオ)とともに盗みをしかけて、巡回仲の警官に出会った。フランキイはジョッポが粋がって持参してきた拳銃を使い、警官二人を射殺するが、脚に銃弾を受けた。ジョッポは負傷したフランキイを、暗黒街の大物「ミスター・カーフォン」の組織の若手幹部であるアンディ・オレルリのもとに担ぎ込み、治療と隠れ家の提供を請う。そしてアンディが、咄嗟に警官を撃ち殺したフランキイの技量と度胸を評価し、一方でフランキイがアンディの美貌の妻シリアにひそかな関心を抱いたことから、新たな物語が動き出す。 1959年のアメリカ作品。 エヴァン・ハンター(エド・マクベイン)が「リチャード・マーステン」名義で書いた初期長編の一冊。本国でマーステン名義で刊行されて、日本にはマクベイン名義で翻訳された作品は他にもあるが(扶桑社文庫の『湖畔に消えた婚約者』など)、訳書そのものがちゃんとマーステン名義なのは、現在まで確かこれだけだったはず。 もともとは同じ中田耕治の翻訳で「デイリースポーツ」に『拳銃の掟』の邦題で連載されたのち、創元文庫に収録されたらしい。そのことは今回、文庫の巻末を読んで、さらにネットで情報を拾って初めて知った。 内容は、広義の兄貴分といえる若手ギャング、アンディを介して大物カーフォンの組織に迎えられ、トラブルをしょいこみながらもぐいぐいと(ビッグ・マンへと)成りあがっていく若造フランキイの、暗黒街での立身出世物語。 120%コテコテのピカレスクでクライム・ノワールで、特に大きなツイストやミステリ的なサプライズなどもない話である。だが抑えた筆致で語られる、極めてドライにぐいぐい己の野望や欲望に邁進してゆく主人公フランキイの描写が、なかなか読みごたえがあった。軽く唸らされる場面が三つ四つ。決して大振りスイングは見せない作品だが、職人作家ハンター(マクベイン)らしく堅実にポイントを稼いだ感じで、のちのウェストレイクの『やとわれた男』などにも影響を与えている……かどうかは、わからないな。本作も『やとわれた男』も、ともに王道のノワールを突き進んで、できたものが似てしまった、という面の方が大きいかもしれないし。 物語としてはまぎれもないクライムノワールなんだけど、全編を通じて冷徹な語り口、そして主人公の乾いた思考が一貫していて、本当の字義での? ハードボイルド作品としても一級だと思う。 よくある話、といえばそれ以外の何物でもないのだが、そのありふれたストーリーをこの程度に完成度高くまとめられたのは、やはりハンター=マクベインの筆力の地力(じぢから)だろう。 2時間ちょっとで読んでしまったけれど、得たものは少なくはない。 |