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ミステリの祭典

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ダウンリヴァー
私立探偵エイモス・ウォーカー

作家 ローレン・D・エスルマン
出版日1991年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/03/24 20:11登録)
(ネタバレなし)
「私」こと、デトロイトの36歳の私立探偵エイモス・ウォーカーは、知人の収監中の受刑者の仲介で、出所したばかりの42歳の黒人リチャード(リチー)・デヴリーズの依頼を受ける。デヴリーズは20年前の強盗犯人の一味で、ややこしい事情からその20年間ずっと服役してきたが、間尺に合わないので、半ば冤罪といえる自分が長期服役した代価として、仲間の誰かが当時強奪した金額20万ドルを戴きたい。そのために当時の事件の真相と真犯人を暴き、20万ドルをウォーカーに取り戻してほしいというのが、当人の希望だった。ウォーカーは、法に触れない範囲で、出所したばかりのデヴリーズの世話も兼ねて、依頼を受ける。そしてそんなデヴリーズには、かつての仲間の現在の行方について、ある情報を握っていた。

 1988年のアメリカ作品。私立探偵ウォーカーシリーズの、長編第8弾。
 本国では刊行年度の「アメリカン・ミステリ賞」(「ミステリ・シーン」誌主催)のうち、「最優秀私立探偵小説賞」を受賞したそうな。しかし不勉強な評者は、そんな賞も主催誌も、ここで今回、初めて知った(汗)。


 本シリーズはつまみ食いで読んで、これで3冊目だが、前に読んだシリーズ第5作目の『ブリリアント・アイ』が今ひとつ楽しめなかったものの、こちらはまあまあ。
 ただ突出して面白いというわけではなく、公私で別のこともしていたので読了までに3日もかかった。
 それでも最後、クライマックスの盛り上がりはちゃんと満喫できたので、それなりには良かった、ということになる。

 この物語は、依頼人のデヴリーズが、読者から見れば「まあ、大変な目にあったんだから気持ちはわかるけどよ」的な、当人の欲求にスナオになるところから開幕。そんな思いに付合うウォーカーの行動もまた触媒となって、あちこちの隠された事実を掘りおこしてゆく。
 ロス・マクとチャンドラーの過去探求ものの最小公倍数を、チャンドラーリスペクト系のネオ・ハードボイルドの鋳型の中に流し込んだ感じだ。
 そう思いながら読んでいたら、後半、さるサブキャラクターが出てきて、さらに50年代の別の、某ハードボイルドミステリ作家の名前が連想された。
(ネタバレにはならないとは思うが、一応、詳しいことは黙っていよう。)
 
 で、クロージングのまとめ方はホントにチャンドラーであった。いや、具体的にどの作品のリスペクトだの真似だのだのじゃなく、文体や雰囲気がそれっぽい。たぶん現物を読んでもらえば、言ってることはわかるであろう。

 エスルマンの諸作の出来は悪くはない……いや、普通にスキ……ではあるんだけど、ひさびさにこの近年に、2冊分を読んで、微妙な距離感を認めないでもない。
(素直に面白かった印象があるのは『シュガータウン』と「ホームズ対ドラキュラ」だが。)
 またそのうち、機会を見て、未読のものを読んでみよう。

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