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ミステリの祭典

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怪異雛人形
講談社大衆文学館

作家 角田喜久雄
出版日1995年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2022/03/23 09:08登録)
この短編集は、角田喜久雄の「捕物帳」アンソロである...というのを「意外!」と感じるのを、編者の縄田一男氏は想定しているのだろう。角田喜久雄は「時代伝奇」の作家であり、それは画然として「捕物帳」とは区別されるべきだ、という縄田の前提があるわけだ。この「ジャンル感覚」を角田の実作を通じて、相互のジャンルの侵犯と、海外ミステリとの三角関係のなかで捉えてみよう、というなかなかに凝った狙いがこのアンソロに込められている。
実際「捕物帳」というのは「右門捕物帖」が作りあげたフォーマットである。角田自身、そういう「捕物帳の決まった型」に対する不満から、より奔放に幻想と合理性を両立させた伝奇ロマンに向かったという述懐があるようだ。そこであえて「捕物帳」というジャンルを取り上げたことで、やはり「捕物帳」というジャンルに対する角田の「ミステリ作家」の視点が窺われることになる。この兼ね合いが、面白い。

表題作の「怪異雛人形」は、「連続殺人の被害者が全員、首の抜けた雛人形を抱えて死んでいた」というイカニモな猟奇事件なのだけども、実はちゃんとミステリな真相がある。つまり「ミステリとしての捕物帳」。同様に「逆立小僧」は室内すべての品物が裏返しになっている殺人現場の謎。要するに「チャイナ橙」。これにも合理的な理由を見つけ出している。
「鬼面三人組」は派手な集団抗争モノなので、こっちは角田お得意の時代伝奇の要素を捕物帳に落とし込んだ形式になる。しかも、「悪魔凧」だと、この時代伝奇要素がハードボイルドといった方向に突き進んでいっていて、これがなかなか、いい。土着型ハードボイルドというか、「木枯し紋次郎」テイストといえばいいのだろうか。
怪談風の因縁で自殺が続く「自殺屋敷」。エーヴェルスの「蜘蛛」とか「自殺室」とか「目羅博士」とかああいう趣向で、密室殺人を提示してみせる。横溝が「開放的な日本家屋は密室に向かない」で困った話があるわけで、捕物帳では「どうやって、密室」よりも「なぜ、密室」の方がずっと自然でかつ盲点な着眼点になる、という狙いが実は大変面白い。まあ、HOW の方は反則みたいなものだが、「密室」というテーマのこんな独自の捉え方がある、というのが一番のポイント。

いや実に、ミステリ読者こそ、この角田捕物帳を読むべきである。

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