まぼろし姫 |
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作家 | 高木彬光 |
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出版日 | 1961年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2022/03/21 18:30登録) 角田喜久雄の時代伝奇を先日扱ったわけだが、春陽文庫のカタログを見ると、高木彬光の時代小説が大量に載っているのを見つけた...そういや、そうだね。高木彬光というとかなりの多作家でもあって、Wikipedia でカウントしても200冊を超える著書があり、そのうちミステリはジュブネイルを含めて約6割の120冊あまり。残りは約50冊の時代小説、20冊ほどの占い関連書、そしてSFやら架空戦記やら怪奇実話や邪馬台国や闘病記.. だったら、時代小説も、一応高木彬光の「主力」のジャンルと言っていい。 でも高木彬光の時代小説って、今となるとかなりニッチだ。ググっても書評は少ない。なので、「面白い作品がどれか?」とかまったく情報がないのだが、春陽文庫でわりと最近まで出ていた本作を選んでみた。入手性もいいんじゃないかな。 町火消し「い組」の棟梁喜兵衛は、出くわした辻斬りと自身の娘の誘拐事件が発端となり、「まぼろし姫」という言葉を巡る暗闘に巻き込まれる。菊屋敷に住む将軍家斉の姫、菊姫の「千姫御殿」を思わせる奇怪な噂の真相は? 最後はその菊屋敷が炎上し、喜兵衛と婿で事件の探索に当たった三次が炎の中から救い出したのは... まあそんな話なんだけど、これが「時代伝奇ならでは」なネタについてのミスディレクションが効いた、ミステリ風味の強いスリラーだったりする。時代伝奇だからアクションは派手。話が二転三転して転がっていく先がなかなか見えなくて、意外な展開をするので面白い。あとこの人独特の刺青趣味も、火消しだから一番自然な世界。 というか、高木彬光という作家の最大の弱点って、キャラ造形が下手で属性をいろいろ盛っても、へんに空々しいあたりだと思っている。これが時代劇だと、町人は町人らしく、侍は侍らしく描けていればそう文句は出ない。うまく弱点を隠すことができるんだよね。だから単純にプロットに専念すればいいわけだ。 なるほど、向いてる。評者の他にも高木彬光の時代小説を読んでみたい方がいらしたら、おすすめします。 (追記:本作が高木彬光時代伝奇の頂点、とする書評があった。やはりイイ作品なんだな) |