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ミステリの祭典

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妖棋伝

作家 角田喜久雄
出版日1948年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2022/03/17 23:32登録)
横溝正史でも城昌幸でも時代小説の書き手として人気だったわけで、ミステリ作家と時代小説作家の兼業は昔から珍しいことでも何でもない。春陽文庫のカタログを見ると高木彬光の時代小説も大量に載っているくらいのもので、時代小説を一切書かなかった乱歩が例外、と言い切ってもいいとまで思う。
で、兼業作家でもどっちか言えば時代伝奇の作家としての方が主力だったのが角田喜久雄である。それでもこの人、デビューは探偵小説だし、戦後も継続してミステリを書いていたわけで、立派に両立していた作家の最たるものである。
本作は戦前の「伝奇三部作」と呼ばれる代表作の一つ。でもね、いや何というか、かなりドライな作品なのが面白い。時代劇と言うと「人情」とかそういう話になりがちなのだが、そうじゃない。ゲーム性がかなり強い。風太郎の直接の先輩。

宝探しに向けてその手がかりになる将棋の駒を奪い合う争奪戦だが、主なプレイヤーが4組。大岡忠相をバックにする陣馬一令、公家の側室を名乗る妖婦の仙珠院、札差の悪徳商人の下条元亀、鬼与力で評判の赤地源太郎....それに加えて上州からやってきた縄を使う郷士武尊守人と、江戸を騒がす怪人「縄いたち」が、この争奪戦に巻き込まれる。
だから登場人物も多いし、相互の騙し合いや駆け引きがかなり複雑で、勧善懲悪どころじゃなくてそれこそ「血の収穫」ばりのクールな集団抗争劇になっている。結末も予定調和なハッピーエンドでもないし、「宝物」も実は江戸の太平の世ではもう厄介者のような秘密でしかない。

そんなかなりモダンなテイストの話なのである。たとえばミステリ代表作の「高木家の惨劇」だって、それぞれのプレイヤーが騙し合い裏切りあう、ややこしい抗争が背景にあるのを考えたら、時代伝奇でも同じことをしているようなものだ。

関東大震災で東京に残る江戸の風情が消え去ったことで、「幻想の江戸」が成立する、というのが縄田一男の「捕物帳の系譜」のテーマだったのだが、この「幻想の江戸」は、リアルの過去とは無縁の自由な「ゲーム空間」だったと言ってもいいのだろう。その「いつでもなく/どこでもない江戸」をクールに、ニヒルに、自分自身だけが頼りの都市住民として闊歩するのが、実は戦前の時代小説のヒーローたちだった...そう見る方のが、実は正しいのだろう。

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