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ミステリの祭典

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掠奪部隊
マット・ヘルム、部隊シリーズ

作家 ドナルド・ハミルトン
出版日1968年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/03/16 05:18登録)
(ネタバレなし)
「私」こと、アメリカの諜報組織M機関の一員マット・ヘルムは、硫酸で顔を焼かれた若き同僚グレゴリイ(グレッグ)の死体を認める。グレゴリイは「マイケル・グリーン」の変名で、軍事用のレーザー研究をする物理学者ハーバート・ドリリングの妻で30代半ばのジュネビーブ(ジェニー)と15歳の娘ペネロープの行状を見張っていた。ジュネビーブは娘とともに、仕事一図の夫と別働中だ。そんなジュネビーブの周囲には、不倫相手の男の影が見える。だがそのジュネビーブが夫の研究する機密を持ち出している疑いがあるため、ヘルムは私立探偵「デビッド・クリベンジャー」の偽名で彼女に接近。ジュネビーブに近づこうとするらしい某国スパイたちの動きまでも探るが。

 1964年のアメリカ作品。マットヘルム(部隊)シリーズの第8弾。

 顔を焼かれたショッキングな惨殺死体の描写から開幕。さらに訳者・小鷹信光のあとがき解説を先に読むと「××トリック(←ネタバレ回避のため、評者の判断で「××」部分を伏字にしました)を応用した本書のメイン・トリックには、本格的なミステリ通もひっかかることだろう」とある。それで、ハハーン、これは……と、ホイホイ「そのつもり」で読み進めたら、後半で(中略)!!! うーむ! と舌を巻く。

 国内の各地を移動するメインゲストのヒロインたちとつかず離れず(いや「離れず、時についたり」か)行動する今回のマット・ヘルムの活躍は、ロードムービー的な興趣を披露。そんな物語の流れのなかで、時に冷徹さを極めたり、あるいは計算高い覚悟を強いられたり、プロスパイとして非常に骨っぽい。

 ミステリ的な面白さとしては、前述した、物語後半でのかなりのサプライズが効果的で、しかもそこに至るまでの伏線の張り方も鮮やかだが、そんな一方でハードボイルド性の強い諜報・工作員ものとしても、かなりハイレベルな面白さだった。
 少なくとも、評者がつまみ食いで順不同に読んだこれまでのシリーズ3冊のなかでは、これが一番光っている。
 
 前述の本書の巻末の解説で小鷹は「ハミルトンは本シリーズをもとに、アホなB級映画シリーズを作らせたが、実はかなり冷ややかに映画製作者たちの喧騒ぶりを見ていた、聡明な作家だ」という主旨のことを書いているが、さもありなん。
 なんにせよ、シリーズがそれなりに巻を重ねてなおこの出来なのなら、エンターテインメントというか、ハードボイルド味の濃厚なエスピオナージ・スリラー作家としてはホンモノであろう。評者もようやくこの作者の真の魅力に、たどり着けた手ごたえがある。

 とにかくバラバラに、シリーズの順番を気にしないで読んでもこれだけ楽しめるというのは、かなり有難い&大事なことであって。

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