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ミステリの祭典

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サイレント・ナイト

作家 高野裕美子
出版日2000年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/03/13 06:52登録)
(ネタバレなし)
 21世紀が目前に迫る時代。大企業・鶴見興産の御曹司で「航空業界の若きプリンス」と称される青年社長、鶴見雅彦が創業した新興航空会社「ワールドインター」は、若者を主対象にしたサービス企画とかなり低価格の料金にて、寡占状態だった戦後の日本の航空業界に食い込みつつあった。だがそのワールドインターのジャンボ機に、何者かによって爆弾が仕掛けられる事件が発生。一方で老舗の航空会社のベテラン整備士・古畑実は鶴見から、引き抜きスカウトの話を持ち掛けられる。そしてそんな一連の事態と並行して、都内の周辺では、暴力団「荒木田組」幹部の謎の爆殺事件、そして謎の人物「ウツボ」による連続殺人が進行していた。

 第3回・日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。
 正直、評者はあまり意識していなかったミステリ新人賞だが、調べてみると本書の版元・光文社系の新人賞だとわかる。
 Wikipediaで歴代受賞作品を探求すると、マイナーな作家や作品も多く(主観です。単に評者の知見が貧弱なだけでしたら、すみません)、現時点での受賞作家では岡田秀文(第5回)、結城充考(第12回)、両角長彦(第13回)、前川裕(第15回)、葉真中顕(第16回)あたりがメジャーか(他にも、評者が読んだことのある作家や作品がちらほらあるが)。
 
 それで本作の作者、高野裕美子はこの作品でデビュー以前に海外ミステリ、冒険小説などの翻訳家として活躍。スティーブン・クーンツの諸作などを何冊も訳出したのち、オリジナル作品の創作者の道に進まれた(惜しくも2008年に他界されたそうだが)。

 本作の内容はあらすじの通り、航空業界を舞台にしたミステリで、サイドストーリーとして同業界に関わってくる暴力団組織、その周辺の殺傷事件も話にからむ。メインキャラクターといえるのは、青年社長の鶴見雅彦とベテラン航空機整備士の古畑実、そして古畑の親友といえる新宿署、暴力団相手の刑事・角田の三者だが、サブキャラまで含めれば100人近くの名前ありキャラクターが登場。なかなか錯綜した筋運びを披露する。
 個人的にはラストの反転に結構、驚かされたが、もしかしたら、早期に作者の仕掛けに気づく人もいるかもしれない。とはいえ、物語の終盤、まったく立場の異なる登場人物ふたりの心象が刹那重なるあたりの切なさとか、何とも言えない無常観。
 ミステリとしてはそれなり以上に、小説としては普通に楽しめた。
 
 脇の甘いところも皆無ではないが、処女長編でこれだけまとめられれば十分だろ、とは思える良作。またそのうち、別の作品も手に取ってみることにしよう。

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