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ミステリの祭典

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13日の金曜日
「13日の金曜日」ノベライズシリーズ

作家 サイモン・ホーク
出版日1988年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/03/12 07:40登録)
(ネタバレなし)
 1957年、アメリカの小さな田舎町クリスタル・レイク。そこのクリスタル湖のキャンプ地で、少年ジェイソン・ヴォリーズが溺死した。その翌年、不可解な殺人が発生、やがて謎の放火事件を経てキャンプは閉鎖される。が、1970年代の末に先代所有者の父親から土地の権利を継承した若者スティーヴ・クリスティは、ガールフレンドのアリスやバイトの青少年たちとともに、20年ぶりに夏季シーズンのキャンプを再開しようと考えた。そして6月13日の金曜日、料理役をまかなうバイト少女のアニー・フィリップスがキャンプ地に向かうが、彼女が職場に到着することは永遠になかった……。

 1987年のアメリカ作品。
 今さら説明の要もない、1980年に製作公開された近代スプラッター・ホラー映画の中興の祖の公式ノベライズ。映画のシリーズ化企画が安定路線に乗るなか、原作の映画第1作の物語が、公開の7年後に小説化された。
(翻訳は出ていないが、シリーズの続編映画もこのあとアメリカではノベライズ刊行されたらしい。)

 評者は、30数年前に本ノベライズが刊行されたときは気にも留めず、その後は存在まで忘れていたが、先日ふと改めて、本書のことをたまたま意識。何やら評判もいいみたいだし、古書価格もプレミアがついているのに興味を惹かれて、思いつきで借りて読んでみた。

 なお評者は原作の映画(本編91分)は封切直後に劇場で一度、テレビでも一度、計二回以上は観ているはずだが、だいぶ前なので細部は忘れている。
 とはいえ本ノベライズ巻末の解説にもあるように、映画のストーリーそのものはシンプルな上に、小説独自の作劇的なアレンジはないそうだから、かなり原作の映像に忠実な活字化といってよさそうだ。

 プロットがほぼ映画そのままな分、小説で膨らませられたのは登場人物の過去設定や内面描写で、たとえば主人公格のヒロイン、アリスは亡き父が貧乏から抜け出そうとして働きバチのように生きた末に過労死した過去を持つとか、そんな文芸設定が付加されている。
 また、呪われていると悪評のキャンプ地を再興しようと躍起になるスティーヴの心象に、ビジネスで奮闘することでアメリカ市場に食い込んだ日本人への憧憬の念があり、かの本田宗一郎の名前まで登場(!)するのがオモシロイ。
 
 とはいえまあ、ノベライズの作法としては特に突出してスゴイことをやっているわけでもなく、丁寧に60点取ったノベライゼーション作品という感じ。
(逆にいえば、あくまで原作の映画に準拠し、活字で奉仕した小説作品という側面から見るのなら、なかなか優等生的なノベライズかもしれない。)

 なお作中で登場人物のひとりが、ミシシッピの川を行くバンパイア云々の小説を読む場面があり、ああ、ジョージ・R・R・マーティンの『フィーバー・ドリーム』だなと思ったら、巻末の解説でそうだと確認できた。もっともこの『13日の~』のノベライズが翻訳刊行された時点では、まだその『フィーバー~』は未訳だったんだな。
(実は『フィーバー~』は以前に友人から、読めと言われて預かって、積読のままの評者である~汗~。)

 翻訳はあの大森望。さすがに訳文は達者でスラスラ読めるが、69ページの「(ハンフリー)ボガー『ド』」表記はこの人の責任か? 創元の編集部か校閲が改竄した可能性もあるけど。 

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